2014年4月10日木曜日

尖閣防衛-(5):解放軍のチンドンヤ・羅援少将の怪気炎、まともにとるとこうなる!

_

●中国のインターネットメディアが掲載した尖閣に対する日中航空基地の比較(この図には中国航空基地の一部だけが記されている)


JB Press 2014.04.10(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40408

一笑に付すことはできない羅援少将の怪気炎
「対日戦争に向けて万全に準備」と日米を恫喝

 強硬というよりは過激な対日・対米コメントで名を馳せている人民解放軍の羅援少将(退役)が、4月2日の「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙上で「領土問題が引き金になって日中軍事衝突が勃発する可能性はますます高まっており、中国は防衛する以上の能力を保有している」と再び怪気炎を上げた。

 羅援“少将”の今回の強硬発言は、ヘーゲル国防長官による日本訪問ならびに中国訪問を睨んでの恫喝発言といった意味合いもある。
 同時に、羅援をはじめ人民解放軍強硬派による「近い将来に日中軍事衝突が起きた場合には人民解放軍が優勢である」といった論調に反対あるいは疑義を差し挟む勢力に対して、反論を加えておこうといった狙いもあったようだ。
 サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙が英語圏では比較的読者層が広いことを念頭に置いての発言である。

■「航空自衛隊の方が強い」論への反駁

 羅援“少将”が反論を加えようとしたのは、日本のメディアやカナダベースの中国軍事分析専門誌である漢和ディフェンスレビューなどによる
 「尖閣諸島周辺空域で日中航空戦力が衝突した場合、航空自衛隊の方が優勢である
という以下のような主張に対してである。

 航空自衛隊の戦闘機F-15は人民解放軍空軍や海軍の新鋭戦闘機に比べると年代物ということになる。
 しかし、航空自衛隊パイロットと人民解放軍パイロットの訓練時間やプログラムを考えると、どう考えても航空自衛隊に軍配が上がる。
 航空自衛隊パイロット1名は少なくとも人民解放軍パイロット3名に相当する(「漢和ディフェンスレビュー」)。
 また、戦闘機自体に関しても、F-15の信頼性や搭載ミサイルの性能それに近代化改修プログラムなどを考慮すると、F-15が人民解放軍の新鋭戦闘機に比べて圧倒的に力不足な旧式機というわけではない。
 したがって、人民解放軍が尖閣上空の航空優勢を自衛隊から奪取することなどほとんど考えられない──。
 羅援少将は
 「このような主張は日本を利するために、一般の人々の考えを混乱させる欺瞞戦術である」
と一蹴する。

 そして以下のように中国側の“圧倒的優勢”の理由を述べ立てる。

★.日本側の尖閣に近接する航空基地は沖縄の那覇基地たった1カ所にすぎない。
 そして那覇基地をベースにして尖閣に投入できる戦闘機はわずか30機のみで、それも1980年代から使われているF-15である(漢和ディフェンスは沖縄に配置されているF-15搭乗員たちは日本最強の熟練パイロットである、と羅援に釘を差している)。

★.一方、人民解放軍の福建水門航空基地は那覇基地よりも尖閣に近接している(那覇航空基地~魚釣島はおよそ420キロメートル、水門航空基地~魚釣島はおよそ380キロメートル)だけでなく、水門基地以外にも尖閣上空に近接する航空基地は数多く存在している。

 そしてそれらの航空基地には新鋭戦闘機をはじめ各種航空機多数が配備されているだけではなく、ロジスティクスの態勢も万全になっている。
 したがって、尖閣上空での日中航空戦は人民解放軍側が「圧倒的に」優勢なのだ。

 もっとも、米軍関係者の多くが尖閣上空での航空自衛隊と人民解放軍との航空戦といった「PCゲームのような想定を論じてもあまり意味はない」と指摘する。
 なぜならば、航空戦力“だけ”が投入されての日中航空決戦などは作戦目的を見いだせないし、そのような日中軍事衝突に双方の水上戦力が投入されない道理はない。

 また、羅援が
 「日中開戦とともに日本は火の海になる」
(本コラム「アメリカは日本のためにミサイルを撃つか?」参照)と言っているように、中国が手にしている多数の長射程ミサイルは日中軍事衝突のいかなるシナリオでも重点的に考慮せざるを得ない。
 このような指摘は何も米軍関係者だけでなく、自衛隊関係者にも、そして人民解放軍関係者にも共通のものと思われる。

■羅援“強硬発言”のキーポイント

 生粋の軍人ではないが人民解放軍関係機関での要職を歴任した羅援“少将”としても、今回ブチ上げた対日強硬論の本題は、上記のようなどちらかと言えばマニアックな航空戦問題ではなく
 「尖閣紛争を引き金として、日中間軍事衝突が勃発する可能性はますます高まっており、
 人民解放軍は対日戦争への準備を万全に整えて
 一時といえども警戒態勢を緩めていない
という対日・対米恫喝にある。

 このような人民解放軍による対日戦争準備態勢宣言は、本コラムでも取り上げた、アメリカ海軍情報部幹部による
 「中国は対日短期・激烈戦争の準備を整えている
という分析と符合している。
 したがって、羅援少将の度重なる対日威嚇的言動を
 「また羅援が吠えている」
と無視しきるわけにはいかない。

 サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙上でのコメントに限らず、
 羅援少将の対日・対米強硬発言に共通しているのは、
 日中間に軍事衝突が勃発してもアメリカが本格的軍事介入を実施しないという状況が前提になっているという点である。

 今回の発言でも羅援少将は、
 「アメリカの支配から脱却して
 自主憲法と自律的軍隊を有する“普通の国”に生まれ変わるために、
 日本は中国との戦争を踏み台にしている、
ということにアメリカ政府は気がつくため、日本と中国とのいかなる軍事衝突にもアメリカが介入することはない」
と断言している。

 羅援“少将”の一連の対日強硬発言は、ときにあまりにも過激すぎるために中国国内でも失笑を買う場合もあるようだが、
 「アメリカは出てこない」という前提
が単なる羅援自身の願望ではなく、オバマ政権の対外政策における度重なる失敗と、強制財政削減措置まで発動しての大幅な国防予算削減によるアメリカ軍戦力の低下といった事情により、極めて現実味を帯びてきつつあることに注意する必要がある。

■アジア再均衡に対するアメリカ国内の懐疑論

 東アジア情勢に関心の高いアメリカの軍関係者やシンクタンク関係者の間にも、
 「オバマ政権は“アジア再均衡”を標榜しているものの、
 日中衝突をはじめとする東アジアでの軍事紛争にアメリカが介入するどころか、
 東アジアで同盟国や友好国が軍事的圧迫を受けないようにアメリカ軍が目を光らせることすらできなくなりつつある
といった論調が目立つようになってきている。

 もちろん、少なくとも筆者の知る限り、日中軍事衝突が勃発した場合に日本を軍事的に支援することに疑問を差し挟むような軍関係者は見当たらない。
 しかしいくらアメリカ軍や国防当局が日本救援軍を送り出すことを当然と考えていても、そのための予算が欠乏していたり、そのために必要な軍艦が不足していたのでは、現実に救援軍を派遣することはできない。

 そしてなによりもアメリカ政府が中国と戦闘を交えてまでも日本を救援しようという決断をし、そのような決断を連邦議会が支持する見込みがなければ、とても米軍に対してゴーサインが出されることはない。

 ところが、アメリカの国民の多くが、目に見えた効果がなかったイラクやアフガニスタンでの長い戦争によって、そしてそれによって財政状態が悪化してしまったという事実によって、他国のために軍事力を投入することに嫌気が差すに至ってしまっている。
 このような状況下で、日本救援のために中国と一戦交えることに積極的支持が集まるとは、極めて考えにくい。

■アメリカに頼り切る時代は終わった

 日本を訪れたアメリカのヘーゲル国防長官が、2017年までに弾道ミサイル防衛用のイージス艦2隻を横須賀を本拠地にしている第7艦隊に増強するとの約束をした。
 しかし、この程度の約束でオバマ政権の“アジア再均衡”政策が本物だなどと勘違いしてはならない。

 国防予算の大幅削減に伴って、アメリカ海軍は空母打撃群の編成数すら削減することがほぼ確実な状況である。
 空母打撃群が1編成削減されると、少なくとも3隻のイージス艦が“失業”する。
 したがって、それらを弾道ミサイル防衛用に転用して日本に派遣すれば“失業”状態を解消することになる。

 そして何よりも、イージスシステムでのミサイル防衛は、日本防衛用というよりはアメリカ本土防衛用の数段階に張り巡らされる弾道ミサイル防衛システムの第1段階として理解すべきである。
 なにも日本防衛を強化するため“だけ”の措置ではない。
 アメリカにとって、日米同盟は日本を守るため以上にアメリカ自身の国益維持のために存在していることを忘れてはならない。

 日本としては、アメリカの国防予算の大幅削減と、その結果生ずるアメリカ軍の戦力低下、「同盟関係の強化」という名の下に、アメリカ国防当局が推し進めようとしている「同盟相手国への防衛自助努力の強化要請」という現実を直視する必要がある。
 その上で、これまでのように
 「何だかんだ言っても、結局はアメリカが護ってくれる」
といったような単純な期待に基づいた日米同盟のイメージは一新させなければならない。

北村 淳 Jun Kitamura
戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は戦争&平和社会学・海軍戦略論。米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める。現在サン・ディエゴ在住。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)等がある。

 ご存知かと思うが羅援少将とは中国人の「クズ」ランキングに名を連ねる目立ちたがり屋のおっさんである。
 「クズ将軍」とも言われる。
 少将とあるが軍歴はない。
 名誉称号である。
 そういう目立ちたがり屋の中国人が何を考えているのか知るのにはもってこいの人物であることは確かなようである。
 「オバマの裏切り」によって、日本はアメリカを信頼国から友好国に心理的に格下げした。
 しかし、2/3世紀にわたるアメリカの日本防衛システムのコントロールは有効に機能している。
 これが機能している間に中国に揺り起こされてしまった赤ん坊状態の日本を自分の手で国を守れる形に作り変えなければならない。
 しばらくは、綱渡りであろうが、やっていくしかないだろう。
 羅援少将みたいな人がチンドンチンドンやってくれることにより、中国人はあたかも中国が戦いで勝ったような心地よい気分になることができる。
  それによって社会不満がいくらかでも抑えられる。
 机上戦争で勝つなら本番でもいけそうだ思い込むことによって溜飲が下がる。
 ガス抜きになる。
 日本側はこれではいけないと気を引き締め、守らねばという意識になってくる。
 中国は日本を征服するための準備を着々と進めている。
 征服というよりは数量的恫喝を行って、日本自体が自ら降参するように仕向けている。
 そんな相手を指をくわえて傍観していたらどうなるか、という危機感を煽ってくれる。
 つまり、両方でこのチンドン屋をうまく使っているということである。
 それで、どちらもそれなりに益を得ている。



【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】



_