2014年4月23日水曜日

中国経済は政府想定の範囲内で推移する:短期的成長と長期的には経済構造の転換を両睨みする中国

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 WEDGE Infinity  2014年04月22日(Tue) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3800

短期的な成長と長期的には経済構造の転換を両睨みする中国
中国経済は政府想定の範囲内で推移する

 中国の14年1-3月期実質GDP成長率が発表され、プラス7.4%(前年同期比)の成長となった。
 13年10-12月期のプラス7.7%成長から鈍化しており、政府成長率目標のプラス7.5%前後には収まるものの、景気の減速感は否めない。

 景気減速を受けて、中国の李克強首相は4月2日に
(1).中小企業の減税、
(2).都市の住宅再開発と住宅金融の充実、
(3).鉄道建設の推進
の3項目からなる景気対策を決定した。
 合計1兆元(17兆円)を超える規模となる模様であり、これで景気は盛り返すこととなろう。

 政府の景気テコ入れは、今や中国経済の成長に益々大きく依存する世界経済にとってはプラスとなる。
 まして、政府の経済成長目標7.5%達成が展望できることとなれば、中国経済に一喜一憂する市場にはとりわけプラスに効くことにもなろう。

 しかし、景気対策は良いことばかりではない。
 それは、
 中国経済が、過剰なまでの政府による投資主導でけん引してきた経済成長
を、投資と消費のバランスが取れた経済成長に変化させる構造転換の途上にあるからである。
 そして、経済構造転換を図る中での公共事業を中心とする景気対策は、短期的には景気を支えるものの、一方で中国経済が必要とする構造転換を遅らせかねない。

 中国経済では、新規求職者を吸収する当面の経済成長も、持続的な安定成長を実現する構造転換も不可欠であり、近視眼的に見るだけでは見誤ることになる。
 中長期的視点を踏まえながら足元の動向を見ることが欠かせない。

■政府目標目指す経済成長

 今年1-3月期の実質GDP成長率以外の指標を見ても、中国経済の減速傾向は明らかとなっている。
 生産、投資、消費や雇用など多くの指標で構成されている景気動向指数を見ても、足元の景気動向を示す一致指数のみならず先行きの景気動向を示す先行指数も下落傾向にある(図表1)。


●【図表1 】中国:景気動向指数の推移

 電力消費量が回復するなど堅調な指標もあるものの、減速が目立つのは消費関連である。
 小売販売額の増加率は鈍化しており(図表2)、いままで堅調であった自動車の生産販売も力強さが減じている(図表3)。


●【図表2】 【中国:小売販売額増減率推移】


【図表3】中国:自動車生産・販売額推移

 この景気鈍化に対して発表されたのが今回の景気対策である。
 そして、この景気対策で、中国政府は当面の景気下支えに止まらず今年の経済成長率目標7.5%前後の実現に向けて強い意志を示したということができる。

 また、景気対策と平仄を合わせて、中国の一部都市が住宅購入と住宅ローンの規制緩和を検討しているとの報道もある。
 この規制緩和が実現すれば、上昇率が急速に鈍化している主要都市での不動産価格(図表4)が下支えされ、景気浮揚が地方を含めて一層確実なものとなる。


●【図表4】【中国:不動産部門の景況感と価格の推移】

■投資過剰な中国の経済成長

 しかし、今回の景気対策で中国経済が安泰とはならない。
 中国経済が構造調整の中にあるからである。
 中国政府は、政府が前面に出た投資主導型経済成長は過剰な投資を招いたとして、投資と消費がバランスする経済成長へと転換を促進している。

 確かに、中国経済の成長は官民投資(総固定資本形成)に大きく依存してきた。
 その比率は、かつての高度成長期の日本や韓国なども大きく上回っており、かつての日本と韓国での官民投資が最大でもGDP比で35%前後であったのに対して、45%以上に達している(図表5)。


●【図表5】【アジア主要国:総固定資本形成のGDP比】

 しかも、近年の中国経済に占める投資比率は過去と比べて一段と高くなっている。
 投資は生産力を増加させる。
 過大な投資となれば国内需要で吸収しきれずに、すでに世界一となっている輸出がさらに増え、貿易摩擦や過度の人民元高などによる経済不振につながりかねない。

 中国経済が長期的に安定成長を図るには、投資すなわち生産を消費とバランスさせていくことが欠かせない。
 これが、中国経済が構造転換を必要とする理由であり、その最中の景気対策は、大胆なものとはなりえないばかりか、むしろ必要最小限に抑制されたものとなると見なければならない。

 実際、中国の李克強首相も、4月2日に公表した景気対策から一転して、4月10日に海南省で開催された「アジアフォーラム」総会では、経済成長率の一時的変動に対して短期的で強力な刺激政策を採らず、中長期的発展を重視すると明言している。
 当然ながら、経済構造転換がスムーズに進んでいれば、消費が盛り上がって投資の必要性を減じていくので、景気対策は必要なかったとも言える。
 言い換えれば、鉄道建設や住宅投資など今回の公共事業は、短期的には中国の景気を支えるものの、長期的には中国経済の構造転換を遅らせるものとなる。

 2014年の中国経済で注目すべきは、政府の経済成長率目標7.5%前後が達成されるかどうかだけではない。
 経済構造転換が着実に進むかも大事な点であり、公共事業が伸びる形での7.5%成長は最適な姿とは言えない。

■景気・構造改革両睨みが不可欠な中国経済

 中国経済においては、そのGDPの1/3とも、6割に上るとも言われるシャドーバンキングも懸念されている。
 シャドーバンキングは、一般的な銀行を介さない金融取引や金融商品の総称であり、正式な金融システムに乗らない資金の流れということができる。

 このシャドーバンキングについて、中国政府は、一部の金融商品のデフォルトを容認した上で、金融リスクの拡散防止に全力を挙げる考えを示している。
 市場では、この動きをリスクと捉える向きもあるが、景気対策とは逆の見立てをしなければならない。

 すなわち、短期的には市場の不安を高めるものの、中長期的には金融システムを安定させるとの見方である。
 それは、いずれシャドーバンキングを巡る資金の流れを正常な金融システムに乗せる方向であり、「預金金利自由化が1、2年以内に実現する可能性」を示した人民銀行周小川総裁発言も、シャドーバンキングが提供する高利商品を正常な金融システムに取り込むもので、同じ方向を向いている。

 経済動向や金融を巡る中国政府の対応から見えてくるのは、短期的な経済成長と長期的な内需主導型経済への転換を両立させようとする姿勢である。
 それは、短期的には新規求職者を吸収する経済成長率の達成を不可欠とするものである。

 長期的には、消費増を支える賃金上昇が重視される一方、外需増の重要性が減じていくということである。
 それは、安く輸出することが重要な時代から安く輸入することが重要な時代に変化していくことで、人民元がさらに切り上がっていく方向でもあろう。

 中国経済については、中長期的な視点を踏まえながら足元の動向を見ることが欠かせない。
 景気の好不調や景気刺激策を注視することも欠かせないが、経済構造改革の進展を勘案することも軽視してはならない。

 その意味で、現在の中国経済は短期の景気動向も長期の構造改革も不安なしとは言えない。
 しかし、中国政府の政策対応は短期と長期両方について制御され、秩序立っており、いまのところ景気動向、構造改革とも政府想定の範囲内で進捗していると見ることができる。


中島厚志(なかじま・あつし) 経済産業研究所理事長
1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。



レコードチャイナ 配信日時:2014年4月26日 9時54分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=86972&type=0

<中国は今!>
習近平が打ち出す「GDP英雄不要論」―安定成長への軟着陸は可能か?


●つい先日、北京に行ったついでに天津市まで足を伸ばした。天津市郊外には今、濱海新区という新たな経済開発地区が展開しており、現地は新たなビルが続々と建設中だ。写真は天津のハイテクパーク=筆者撮影

 つい先日、北京に行ったついでに天津市まで足を伸ばした。
 天津市郊外には今、濱海新区という新たな経済開発地区が展開しており、現地は新たなビルが続々と建設中だ。
 ニューヨークタイムズはここを「中国のマンハッタン」と書いたほどだ。

 このような新たな経済の原動力を得て、2012年の域内総生産(GDP)は河北省の半分以上と、天津の経済生産性の高さが際立っている。
 しかも、天津の経済成長率は13.8%増と、中国の31省市自治区・直轄市のなかで最高を記録しているほどだ。

 ところが、北京の経済紙の編集委員と話していたら、
 「中央政府は2014年の経済政策の一つとして、もはや『GDP(国内総生産)至上主義』をとらないことを決めた」
と語っていた。
 地方政府がGDPを増やしたいばかりに、インフラ整備や不動産投資など無理な開発を行い、逆に赤字を増やすケースが多いためだ。
 そればかりか、実際の数字を隠して、少しでもGDP値を上げようとしているのだ。

 なぜ、そのようなことをするかというと、地方指導者の行政成績がGDP値で評価されてきたからだ。
 ほぼ3年から4年ほどの任期中に赴任地のGDPを上げないと、次にワンランクアップのポストにつくことは難しくなる。
 GDPは即出世の重要な要素なのだ。

 ところが、1980年代から90年代にかけて二桁成長が当たり前だった中国経済にも最近、陰りが見え始めているのは否めない。
 昨年の経済成長目標は前年比7.5%増で、今年は7%に減速する見通しだ。

 習近平指導部が発足して1年以上経つが、習主席は最近
 「もはやGDPの成長率で、英雄であることを論じるほど、話は簡単ではなくなった」
とたびたび強調するようになり、GDPで地方指導者を評価することをやめようと呼びかけている。

 前出の編集委員氏は
 「最高指導者の習主席が『もはやGDP英雄は要らない』と主張しており、共産党幹部の人事を決定する党中央組織部も昨年末に記者会見を開いて『幹部の業績をGDPだけで判断することはできない』と人事考課の方針転換を明らかにしたほどだ」
と指摘する。

 この背景には、地方指導者が功を焦るあまり、経済開発を急ぎ、影の銀行(シャドーバンキング)を通じて多額の借金を作り慢性赤字に陥っていることがある。
 結局、地方の債務は回り回って中央政府が処理しなければならず、地方の債務が膨らめば膨らむほど中国全体の金融システムが不安定になる恐れがある。
 さらに、開発にともないPM2.5といった大気汚染などの環境破壊や、業者との癒着など腐敗問題も深刻になっている。

 そういえば、経済的に躍進めざましい天津では、海沿いに位置しているにもかかわらず、PM2.5がひどかった。
 北京から中国版新幹線「和諧号」に乗っても、窓から見える景色は一様に黒ずんでいたほどだ。
 もはや経済発展よりも環境対策が優先されるというわけだ。

 それを象徴して、習近平指導部が打ち出した今年の主要経済方針は「穏中急進」の4文字に集約される。
 一定の成長を保持しつつ、旧弊を打ち破って構造改革を進めていくというものだ。
 「人事評価同様、言うは易く行うは難しだ。
 強力なリーダーシップが求められるだけに、習主席にとって今年は正念場となるのは間違いない」
と編集委員氏は断言する。

◆筆者プロフィール:相馬勝
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。
著書に「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)など多数。 



ロイター 2014年 04月 29日 13:05 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0DF06V20140429

コラム:中国の経済リバランスにちらつく「負の連鎖」


●4月28日、中国では今、経済の「リバランス」が進んでいおり、2006─07年の米経済がそうだったように、不動産市場の急減速を伴って大きく均衡が崩れつつある。写真は湖北省武漢市で26日撮影(2014年 ロイター)

[25日 ロイター] - ジェームズ・サフト

 中国では今、経済の「リバランス」が進んでいる。
 悪いことに、2006─07年の米経済がそうだったように、不動産市場の急減速を伴って大きく均衡が崩れつつある。

 そうした事態はおそらく避けられなかったが、幾つかの見覚えのあるリスクを浮かび上がらせている。
 それは、不動産価格の低下、債務不履行、そして成長の急減速とつながる連鎖反応だ。

 世界にとっては、その影響によるコストが高くつく可能性もある。
 これまで中国のあくなき資源需要を支えることで成長してきたブラジルやオーストラリアといった国々は特にそうだ。

 ロイターの最新調査によると、中国の今年の国内総生産(GDP)成長率は7.3%になるとみられ、昨年を下回って過去24年間で最低の伸びになると予想される。

 これは一見すると、投資依存型の経済を脱却し、消費の寄与がより大きい先進国型の経済に移行するという政府の目標に合致している。

 しかし、中国経済に占める消費の役割が相対的に増しているのは、特に不動産分野での投資が落ち込んでいることが大きな要因だ。
 第1・四半期のGDPにおける不動産投資の比率は12%と、前年の15%から低下した。
 また、1─3月期の住宅販売額は前年同期比で7.7%減少。
 新規着工面積も25%強の減少となった。

 これは、融資の引き締めが原因だろう。
 1年前に比べると、中国の融資総額は9%余り減少している。
 また、中国の債務残高は膨大で、新たな借り入れが続かなければ、不良債権問題に直面せざるを得ないという実例もある。

 北京大学で金融を専門にするマイケル・ペティス教授は、「債務急増は不幸な出来事ではない」とした上で、こう指摘する。
 「それは成長モデルが機能する道筋では基本的なことで、われわれはその段階に到達した。
 (経済学者の)ハイマン・ミンスキー氏はバランスシートに関する論文で、おそらく最も想像力豊かにこう表現した。
 経済システムは単に現状の経済活動を維持するために、借り入れの加速を必要とする」。

 ペティス教授は、
 中国の債務問題は大きくなりすぎて、
 借り手への規制や銀行制度改革では管理できない
と危惧する。
 同教授は
 「国営セクターから一般家計セクターへの莫大な富の移動がなければ無理だ。
 私の考えでは、債務の持続不可能な増加がなければ、GDP成長率は3─4%程度もしくはそれ以下になるだろう」
と記している。

■<ミンスキー・モーメント>

 投機に煽られた信用拡大が急停止し、資産価値が突如崩壊することを示す「ミンスキー・モーメント」という言葉は、
 他のあらゆることと同様に、中国では違った結果をもたらすかもしれない。
 中国は経済的な奇跡を成し遂げてきたが、それは投資に大きく依存することで実現し、借り入れによる投資も膨れ上がった。
 ここまでは、「ミンスキー・モーメント」に当てはまる。  

 投資の質が低下し、理論的に借り手の返済能力が低下しているのは事実だが、話は米国のように単純ではない。
 中国では、あらゆることが政治的な問題というだけでなく、国の組織が政治的問題(つまり、あらゆること)をどう解決するかについて取り仕切る、はるかに大きな力を持つ。

 政府が質の低い投資から脱皮を図ろうとする一方で、多くの人は、不動産が暴落するほどの信用引き締めは行われないだろうと予想している。
 また、個人の借り手は米国より借り入れ規模が小さい傾向にあることから、信用収縮への対処は若干容易になる。
 しかし、このことは不動産暴落の可能性を消し去るわけではない。

 中国でも投資の「アニマルスピリッツ」は同じように存在し、約10年間にわたり過剰な借り入れが続いてきたことから、弱気の連鎖反応が経済全体に広がる可能性も理解できる。
 最終的には、中国の不良債権が把握され、一部セクターに吸収される必要はある。
 それらを家計に押し付けるやり方は消費を増やすという目標に反しているが、企業のバランスシートはそれだけの不良債権を処理できるようには見えない。

 そこで頼みの綱となるのは、中国の強気筋にとって一番の期待となる可能性がある政府だ。

 この問題は中国一国にとどまらない。
 正常に管理されるにせよ、統制不能となるにせよ、投資依存度の低いシステムへの移行は目前に迫っており、そこからうまく脱出してきた国々(資源国を考えてみるといい)にとって最も期待できることは、ショックを吸収する十分な時間を得られることだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。




【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】


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