●『壱読』誌本記事のブログ版:写真、上:浜に引き上げられたウミガメ、中:漁船に所狭しと並べられたウミガメ、下:シャコ貝を捕獲した漁船(これらの写真は今回のものではないようだ)
『
WEDGE Infinity 2014年05月23日(Fri)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3874
ベトナムに加えフィリピンとも深まる対立
漁民に振り回される中国当局
やりたい放題の中国漁民 ウミガメ密漁、サンゴ礁爆破も
中国による南シナ海の西沙諸島で強行された石油掘削事業に端を発する巡視船の衝突でベトナム国内では反中世論が沸騰し、騒乱に発展し、死者まで出る騒ぎになっている。
同様にフィリピンとの関係でも中国の漁民が絶滅に瀕しているウミガメを船に載せていたのをフィリピン当局が拿捕し、起訴したことから激しいやり取りに発展している。
どちらのケースにも中国外交部はベトナム、フィリピンそれぞれに対して強い調子で非難する声明を出した。
中国政府の基本的なスタンスはどちらも中国の領海内での作業であるため、ベトナム、フィリピンにとやかく口出しされる筋合いはなく巡視船による「妨害」は断じて許しがたい、というものだった。
もともとは中国側の一方的行動から激化したにもかかわらずだ。
ただどちらのケースも中国政府がこうした地域で意図的に紛争を煽っているというよりもむしろ
★.漁民、
★.石油開発会社
が作業を強行したために政府が主権保全の名目で彼らを擁護せざるを得ない状況
に追い込まれている様子も窺える。
もちろん漁民や石油業界の行為と政府の相関関連の有無は今後更に注視する必要はあろう。
■「中国漁民は南シナ海で何を採っている?」
特に中国漁民の所構わぬ行状は周辺諸国だけでなく、中国国内からも疑問の声が上がっている。
そこで今回は刊行されて間もない『壱読』という雑誌のウェブ版に掲載された
「中国漁民は南シナ海で何を採っている?」
という記事を紹介したい。
同記事は中国国内からの理性的で批判的な論評が珍しいこともあって海外華僑系ネットにも取り上げられた。
鳳凰網をはじめ、様々な中国語で中国事情を海外華僑に紹介する「文学城」サイトや共産党政権への反対を呼び掛け、決起を促す「中国ジャスミン革命網(茉莉花革命网)」さえも文章を転載した。
中国からアクセスできないこうした外国サイトには
「中国漁民は確かに憎たらしい」
という副題もつけられたほどだ。「文学城」サイトに掲載されたこの記事はわずか数日で10万超のアクセス数を記録した。
尚、この『壱読』誌は2012年8月に発刊され、そのスタイリッシュな装いと野心的な話題発掘記事で今後要注目の雑誌である。
興味深いのは、雲南省麗江市宣伝部の監督下に置かれ、同市の文学芸術界連合会が発行している雑誌だということだ。
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【2014年5月13日『壱読』誌ネット版(抄訳)】
フィリピンに拘束されている中国の漁民は、その船上に500匹のウミガメが発見されたことから環境保護違反の罪で起訴される公算が大きい。
(その後9人を起訴し、未成年だった2人を送還した:筆者)。
報道によると収集家に珍重され、絶滅に瀕する種族に害を及ぼしたと証明されれば、最悪で20年の禁固刑と巨額の罰金が科せられる可能性があるという。
事件で焦点となっているのは中国とフィリピンの間の領海紛争である。
本誌『壱読』はもちろん我が国の領海主権擁護を支持し、フィリピンととことんやり合うべきだと考えている。
しかし同時に、もし拘束された漁民が本当に違法にウミガメを捕獲し、運んでいたのなら厳格に処分すべきだとも思う。
もちろんその前提は中国の法律に依拠して処分することだが。
我々は主権を係争しているが、中国の違法捕獲者の犯罪事実も正視しなければならない。
現実には漁民が南シナ海で漁業によって生計を立てにくくなっているが、違法漁業を禁止しなければ南シナ海での生態系破壊の大きさは計り知れない。
そこで今回はこうした心痛む出来事について話をしてみよう。
■海南島では既に20年ウミガメが上陸していない
ウミガメは世界自然保護基金(WWF)によって既に絶滅危惧品種に認定され、国際的取引も禁止されて保護が決められており、我が国(中国)でも1970年代にウミガメを国家二級保護動物に指定した。
我が国では90%のウミガメが南シナ海地域に生息しているが、彼ら(欧米)と対照的なのは中国人がウミガメを経済資源と考え、亀肉、亀甲製品を健康商品や薬品として見なし、ウミガメの美しい甲羅で装飾品や眼鏡フレームが作られる。
そのため1959年から今まで中国の南シナ海では少なくとも10万匹のウミガメが殺されてきた。
2013年3月、中国漁政局(農業省傘下の漁業取締部門の巡視船:筆者)が美済礁(英語ではミスチーフ礁と呼称。フィリピンが領有権を主張)で違法操業し、ウミガメを密輸しようとしている中国漁船を臨検し、船上に107匹のウミガメを発見した。
こうした違法捕獲と同時に近海の汚染も大量のウミガメの死亡をもたらしている。
海南島では既に20年以上もウミガメが岸に上がって産卵していないという。
しかし、ウミガメの肉や製品の市場は依然存在する。
海南省琼海市潭門鎮はウミガメの違法操業や取引の本拠地だ。
近海漁業資源の枯渇の状況で利益を得るために一部の漁船は係争海域のサンゴ礁地域にまで赴き、ウミガメを違法に捕獲したり、購入している。
2003年に海南省琼海市でウミガメ売買の拠点を摘発し、ウミガメ142匹を発見したこともある。
同市政府が3月18日に公表したところによると、潭門鎮のあるレストランではあからさまにウミガメ料理を提供していた。
同市の多くの店では少なからずのウミガメ製品が販売されていた。
国際野生動物取引モニターネットワーク(TRAFFIC)の概算では、2000年から2008年にフィリピン、マレーシア、インドネシアといった国々で中国人によるウミガメ案件が10件起きた。(発見摘発されたものだけだ:筆者)
■シャコ貝を採るためサンゴ礁を爆破
ウミガメだけでなく、シャコ貝もまた南シナ海での違法操業の対象となっている。
「貝類の王者」と呼ばれ、象牙のように純白の貝殻が工芸品や装飾品に使われ、地元名士たちより数珠などに好まれて使われている。
シャコ貝は金儲けの「金の成る樹」になっており、ウミガメと同様に潭門鎮がシャコ貝の捕獲や加工販売面の集積地となっている。
潭門鎮で貝殻工芸品店は200店舗ほどあり、従業者は2000人超にも上り、年間生産高は2、3億元(32億円~48億円:筆者)に達するという。
2012年、琼海市政協会議(参議院議会に相当:筆者)は潭門鎮に視察察団をわざわざ派遣して貝殻産業の発展状況を視察し、
「市場発展の潜在力は巨大だ」と結論付け、「(産業を)さらに強化すべき」
とさえ提案している。
その年の11月には海口市で開催された「中国国際ファッション博覧会」では「黄岩島(英語ではスカボロー)のシャコガイの玉」は海南省の十大観光商品にもランクされたのである。
業界関係者によると、一つ、1メートル程度のシャコ貝の貝殻価格は、数年前の2、3千元(3万2000円、4万8000円:筆者、以下同)から現在7、8万元(112万円、136万円)程度にまで高騰している。
販売価格も同様に今年2月の潭門鎮での競売で工芸品として70万元(約1120万円)という高価で競り落とされた。
シャコ貝はリッチになれる希望の星だが、同時に保護を必要とする品種でもある。
早くは1983年に絶滅の恐れのある野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約」(CITES)が、シャコ貝を世界的に稀有な品種の海洋生物と認定し、輸出を禁止した。
我が国の「国家重点保護水生野生動物名簿」でシャコ貝も国家の一級保護水中野生動物と規定している。
そのため、シャコ貝を採るのが違法なだけでなく、工芸品としての販売も違法だ。
西沙諸島海域で大きなシャコ貝は既に消滅し、ほんのわずかだけ中沙諸島と南沙諸島海域で見かけることができる。
生きたシャコ貝の捕獲が難しいため、違法捕獲者たちは死んだものでも引き上げる。
時として爆薬でサンゴ礁を吹き飛ばすこともあり、多くのサンゴ礁が破壊され、サンゴの残骸が残っている。
我々は当然主権を争うべきであり、領土は一寸たりとも譲歩できないと考えるが、係争を経て獲得した領海がめちゃくちゃな状態なら祖先たちは怒り心頭に達するだろう。
だから隣国と領海問題で交渉を進めると同時に違法操業、開発を取り締まる必要もあるのだ。
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【解説】
★.石油産業グループが既得権益層を形成し、利益集団として政治的影響力を行使する
ことは理解しやすいが、
今回紹介した文章では漁業、特に絶滅に瀕するウミガメやシャコ貝捕獲を通じても利益集団が形成される様子が描かれている。
★.ただ石油業界と異なり、原始的で規模は小さくプチ利益集団というようなものだが。
絶滅に瀕する動物だけでなく通常の漁業でも同様のことがいえるかもしれない。
貪欲で旺盛な中国漁民の前に周辺諸国の漁業関係者や政府はたじたじである。
こうした彼らのアグレッシブさが日中で衝突にまで発展したのが、2010年に起きた海上保安庁による中国漁船拿捕事件だ。
中国漁民の貪欲さは韓国周辺海域でも同様に見られる。
セウォル号の沈没捜索で手が離せない韓国海上警察の間隙をついて中国漁船は韓国周辺海域にも進出して我が物顔に漁を行っているという報道もある。
中国当局は自国の主権ばかりを国民に学習させるのではなく、他国の主権を尊重することや資源保護という義務についても啓蒙を図るべきなのだ。
今回南シナ海で起きた紛争が単なる海洋主権の問題として取り上げられるなら、それこそ中国は海軍艦艇や巡視船を繰り出して主権の主張を繰り返すが、この問題は単なる主権帰属の問題としてだけでなく、海洋資源を巡る世界的な問題として対応する必要がある。
中国政府は資源を採り尽くすのではなく、持続可能な発展が求められていることを漁民に理解させる義務がある。
また、海南島など沿岸部で取締りを強化するだけでなく、漁民が海洋資源を持続的に有効に使う方法も模索すべきであろう。
中国には主権擁護といった曖昧模糊な概念ばかりでなく、地に足の着いた政策実施を求めたい。
弓野正宏(ゆみの・まさひろ) 早稲田大学現代中国研究所招聘研究員
1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。
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