●インド人民党の支持者ら(バンガロールで) European Pressphoto Agency
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2014.05.16(金) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40699
インドのモディ氏、「寺よりトイレ」の誓いを貫け
(2014年5月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
九分通りインドの次期首相になるナレンドラ・モディ氏は、ふざけた言い回しをする。
特に印象深い発言の中で、同氏は「寺よりトイレ」を支持すると宣言し、ヒンドゥー禁欲主義との強い関係を覆してみせた。
国民会議派のある閣僚が口にした同じ言い回しは、モディ氏が率いるインド人民党(BJP)から激しい怒りを買った。
BJPは、その発言は「宗教と信仰の基礎を破壊する」恐れがあると述べた。
だが、BJPの指導部は、党の運命がいわゆる「モディ・ウエーブ」にかかっていることを理解し、自党の首相候補であるモディ氏が自分の言葉としてこのスローガンを使った時、ほとんど反対の声も上げなかった。
■モディ氏はどんな首相になるか?
●有権者が8億人を超える世界最大の選挙が終わり、16日に発表される結果で、ナレンドラ・モディ氏の首相就任が確実になると見られている〔AFPBB News〕
インドは宗教的情熱に費やすお金を減らし、衛生にかけるお金を増やすべきだと言い切る
モディ氏は、確かに正しい。
2011年の国勢調査によると、インドの半数近くの世帯はトイレがなく、住民は屋外で排便せざるを得ない。
インドでは、家にトイレがある人より、携帯電話を持っている人の方が多い。
子供の4割が栄養失調に陥っている最大の原因は、食糧不足ではなく、お粗末な衛生状態だ。
野火のようにインド全土に広がったモディ氏の魅力は、このような悲惨な状況を根絶する成長を生み出し、支持者たちを中流生活への軌道に乗せるという同氏の約束によるところが大きい。
ここに、モディ氏が首相に就任した場合の難問がある。
首相就任は16日に発表される選挙結果でBJPが十分な票を確保できた時に初めて確定するが、
彼は果たして、発展を優先し、雇用を与え、官僚主義を打破する指導者なのか?
それとも、モディ氏は
ヒンドゥー民族主義のルーツに回帰し、概ね国民会議派の世俗的な原理原則によって形作られた国に宗派の目標を課すのだろうか?
■日本の安倍首相との類似点
モディ氏に問われていることは、経済不振を食い止めるというモディ氏のような選挙公約を掲げて首相の座に駆け上がった日本の国家主義者、安倍晋三氏にまつわる疑問と似ていなくもない。
実際には、安倍氏は保守主義者と改革者の立場を両立させた。
就任当初数カ月は、結果がまだ不透明な経済再生計画を導入することに費やした。
その後は自身が抱く右派の思考にふけり、厳格な秘密保護法を成立させ、国家主義の神社に参拝することで、ただでさえ不安定な中国との関係を悪化させた。
モディ氏も、近隣諸国、特にパキスタンとの間で潜在的な問題を抱えている。
だが、一義的な懸念は国内に関するものだ。
つまり、同氏がヒンドゥー至上主義を煽り、インド国内の1億7500万人のイスラム教徒に対する不寛容の環境を生み出す、という懸念である。
信仰心を追求するために妻を捨てた禁欲主義者のモディ氏に関する不安は、2002年にグジャラート州で起きた報復による虐殺だけに基づいているわけではない。
当時、モディ氏はグジャラート州首相として、1000人以上(大半がイスラム教徒)が死ぬのをただ傍観したと批判された。
より根本的な問題として、多くのリベラル派のインド人は、ヒンドゥー民族主義の大義に身を捧げる議会会派に根差す集団「民族義勇団」とモディ氏との関係に不安を抱いている。
BJPのマニフェストは、ヒンドゥー教徒には神聖視されているが、一部のイスラム教徒は食べる牛を保護するという公約が盛り込まれている。
また、ウッタル・プラデシュ州のモスク「バーブリー・マスジド」の跡地にヒンズー教のラーマ神を奉る寺院を再建することも目指している。
バーブリー・マスジドは1992年に、このモスクは16世紀にムガル帝国の侵略者によって建造されたと考えるヒンドゥー教徒の手によって、大変な流血沙汰のさなかに破壊された。
一方、モディ氏を支持する経済界エリート層の大半が共有する期待は、
同氏はより善なる本性に耳を貸すというものだ。
よく言われるのは、彼が成熟したということだ。
グジャラート州は2002年以降、平和で、次第に繁栄している。
もう1つ、よく言われるのは、
独立した機構と連邦制度を持つインドは、決して1人の人間に支配されないというものだ。
ある崇拝者の言葉を借りるなら、モディ氏は「たった1人の軍隊」かもしれないし、一部の人が極めて大きな魅力を感じるのは彼の果断な態度だ。
だが、ある識者が言うように、「この国に独裁を敷くことはできない」という信頼感がある。
■タイのタクシン元首相と似た魅力
安倍氏との比較には、限度がある。
モディ氏が持つ有権者への訴求力の2つ目の側面は、やはり扇動家で、政治的、経済的不満の波に乗って権力の座を手にしたタクシン・チナワット氏のそれの方によく似ている。
クーデターで失脚した後、自主亡命しているタクシン氏は、2001年にタイ首相に選出された。
同氏の主な支持基盤は、住民がバンコクのエリート層に無視されていると感じていた、比較的貧しい農村地帯の北東部だった。
モディ氏もまた、腐敗し、利己的な都市部エリートに対抗し、社会に取り残された人たちの意見を代弁すると主張している。
同氏は紅茶屋台の店主の息子だという下位中流階級の地位を利用している。
これまでのBJPの指導者と異なり、上位カーストのバラモン階級の出身ではない。
モディ氏は、国民会議派のラフル・ガンジー氏のことを「シャーザーデ(皇太子の意)」と呼んであざ笑う。
■トイレに専念し、寺院のことは僧侶に任せろ
多くの人にとって、モディ氏の勝利はネール・ガンジー王朝の粉砕に当たる。
作家のウィリアム・ダリンプル氏は、
ネール・ガンジー王朝による独立後のインドの貴族的支配を
「性感染民主主義」
と呼んでいる。
モディ氏は、インドの経済的な目覚めを遠くから垣間見てきた何百万人もの国民が抱く積もり積もった切望を呼び覚ました。
また、狭義のヒンドゥー主義に基づくアイデンティティ政治の誕生を夢見る人たちにも希望を与えた。
前者は歓迎すべきことだ。
後者は断然、歓迎されない。
モディ氏はトイレに専念し、寺院のことは僧侶に任せておくべきだ。
By David Pilling
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ウォールストリートジャーナル 2014 年 5 月 16 日 19:06 JST 更新
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304408504579565293389403128?mod=WSJJP_hpp_RIGHTTopStoriesFirst
インド総選挙、BJPが勝利し政権交代―モディ首相誕生へ
By Niharika Mandhana 原文(英語)
【ニューデリー】開票作業が行われているインドの総選挙では、野党のインド人民党(BJP)が単独過半数を確保する勢い。
これにより、BJPのナレンドラ・モディ氏が次期首相に就任する可能性が高まった。
過去67年の大半において政権を掌握していた与党の国民会議派(会議派)の時代が終わり、大きな政界再編が到来する見通しだ。
選挙委員会によると、16日夜(現地時間)時点で、BJPは下院543議席のうち過半数を超える282議席以上を獲得する勢いだ。
この流れのまま開票が終わった場合、単独政党がこれほどの大勝利を収めるのは30年ぶりのこととなり、BJPが自らの政策を推進する上で優位な立場を確保したことを意味する。
BJPの次期首相候補であるモディ氏は16日夜、出身地のグジャラート州で勝利演説を行い、
「わたしはインドの自由闘争で自らの命を犠牲にする機会は得なかったが、
望ましい統治に自らを捧げる機会を手にすることができた。
この国を発展させる。
この国をかつてないほどの高みに押し上げる」
と述べた。
選挙委員会によれば、ネルー・ガンジー一家が支配し、英国に植民地支配されていたインドの自由闘争を率いた会議派は約44議席の議席を確保したもよう。
これは過去最低の議席数で、これまでにない惨敗を喫した格好だ。
会議派のラフル・ガンジー副総裁は16日、
「われわれには考えるべきことがたくさんある」
と敗退の辞を述べた。
有権者は国民会議派による統治や急激な景気鈍化に嫌気が差しており、BJPがそれに乗じた格好。
インドでは、長い年月をかけて貧困から抜け出したものの、景気低迷や政策の失敗などで中間層の仲間入りを果たせずにいる世代が多くいる。
モディ氏はこうした人々の不満をうまく利用した形となった。
この世代は就業機会や高い生活水準、世界レベルのインフラ基盤を求めている。
2009年から続いた国民会議派の第2次シン政権では、大物政治家の汚職スキャンダルが相次ぎ、政治への信頼感を失墜させた。
今回の選挙で大敗すれば、会議派のラフル・ガンジー副総裁の信頼が傷つき、会議派内部で大規模な人事の刷新が実施される可能性がある。
ラフル副総裁は、現代インドの初代首相を務めたジャワハルラル・ネルー氏のひ孫に当たる。
一方、茶商人の息子として生まれたモディ氏は、自分をガンジー一族王朝に代わる存在と位置づけた。
同氏は会議派の悪政でインドの発展が阻害されたとの批判を繰り返した。
会議派のラウル副総裁は、ガンジー一族が国家に身をささげてきた点をアピールし、今回の選挙を
「インドの魂を賭けた戦い」
と表現。
モディ氏については、宗教を超えて織り上げられたインドを破壊する人物だと批判してきた。
グジャラート州の州首相を務めるモディ氏は、2002年に同州で勃発したヒンズー教徒とイスラム教徒との暴動を抑えなかったとして非難されている。
これについて裁判所は昨年12月、モディ氏を起訴する十分な証拠がないとの判決を下した。
経済政策について、会議派はヘルスケアの拡充や貧困層の保護など、福祉政策の一段の充実を約束。
一方のモディ氏は雇用創出やインフラ整備、生活水準の引き上げなどでインドを一段と発展させることを誓った。
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)傘下であるクリシルのD.K. Joshiチーフエコノミストは
「国民は、ナレンドラ・モディ氏が数年続いてきた政治の停滞を終結させてくれると期待している」
と指摘。
「彼がこれ(政治)を動かしてくれるとの望みを持っている」
とコメントした。
今年の総選挙の投票率は66%と過去最高を記録。
アナリストらは、モディ氏の勝利は中間層だけでなく農村の貧困層を含めた大多数のインド人の向上心を結びつけた結果だと指摘している。
貧困層の間では、テレビやスマートフォンへのアクセスを通じ、最近まで無理だと思われていた中間層に加わりたいという望みが高まっている。
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2014.05.20(火) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40717
インドの新政権:急務は経済のてこ入れ
(英エコノミスト誌 2014年5月17日号)
インドの新政権は経済を立て直さなければならない。
その方法は以下の通りだ。
●世界最大の選挙が終わり、インド最大野党の人民党(BJP)が大勝して、10年ぶりに政権を担うことになった〔AFPBB News〕
5週間に及ぶインドのマンモス選挙が終わり、数億人の有権者が票を投じた。
本誌(英エコノミスト誌)が印刷に回されるころには公式結果が出ているはずだ*1。
数日中には新政権が誕生する。
出口調査ではインド人民党(BJP)が優勢で、10年ぶりに政権に返り咲く公算が大きい。
そうなれば、選挙戦を率いたナレンドラ・モディ氏が首相の座に就くことになる。
投資家たちはこの見通しに胸を躍らせている。
こうした人々は、モディ氏がグジャラート州の首相としてビジネスを後押しした実績や、選挙戦で「ビカス(発展)」を強調していた点を評価しているのだ。
誰が首相になるにせよ、対パキスタン関係の修復から鉄鉱石マフィアへの対応まで、課題は山積している。
しかし、最も優先すべきは、一部の尺度によっては世界第3位にもランクされる経済の立て直しでなければならない。
それこそが、
●.数億人を貧困から救い出し、
●.食べ物にも事欠くインドの若者たちに雇用を創出
するための鍵となる。
これは大仕事だ。
■失われた5年
10年前、インドの経済はエネルギーに満ち、企業活動が盛んな地として、新たな敬意を集めつつあった。
ところが、ここ数年の経済実績は悲惨な状況だ。
今や海外企業のトップは、インドの話になると、1980年代と同様の不信感をあらわにする。
成長率は5%と、2004~2008年の好況期のピーク時の半分の水準にまで落ち込んでいる。
インフレ率と公的債務の水準も高すぎる。
2013年にはルピーが暴落した。
民間企業はお役所仕事や汚職にうんざりし、投資を国内総生産(GDP)比でピーク時の17%から9%にまで減らした。
指標によっては、インドは時代を逆行している。
家計は貯蓄を銀行から引き揚げ、大昔から安全とされる金へとシフトしている。
工業化が進んでいるはずの国で、工業がGDPに占める割合は低下しており、製造業の雇用も低迷している。
前政権は優柔不断で、社会保障制度の整備ばかりに気を取られていた。
インドの新たな指導者たちはもっと戦略的になり、断固とした姿勢を見せなければならない。
新政権の取り組むべき課題は3つの部分からなる。
1]. まず、腐敗した銀行の問題に取り組まなければならない。
些末な話のように聞こえるかもしれないが、決してそんなことはない。
経済が減速し、インフラプロジェクトがお役所仕事のせいで滞っているため、不良債権は膨れ上がっている。
銀行はゾンビ企業に「extend and pretend*2」の融資を続ける道を選択している。
*1=記事が出た後に発表された開票結果では、野党のインド人民党(BJP)が単独過半数の議席を獲得し、10年ぶりに政権を奪還した
*2=融資の期限を延長し、問題がないふりをすること
銀行のバランスシートをきれいにするためのコストは最大でGDPの4%に達する可能性がある。
GDPとの相対比較で言えば、リーマン・ショック時の米国ウォール街の救済策よりも規模は多少大きい。
しかし、銀行が投資の新しいサイクルに資金提供できるところまで健全化しない限り、経済の回復は期待できない。
さらに深いレベルの金融改革も不可欠だ。
銀行は強制的に国債を買わされており、そのため、政治家は無尽蔵に国の借金を膨らませることができる。
買い入れに制限を設ければ、公的部門の見境のない赤字癖を断ち切るのにも役立つはずだ。
2].2つ目は、不安定化の要因となっているスタグフレーションの連鎖を断ち切ることだ。
高水準の公的債務がインフレを加速させ、現在のインフレ率は9%に達している。
家計は自らの貯蓄を守るため、国外から金を購入し、国際収支に穴を開けている。
新政権は食品や燃料の補助金に関する無駄な支出を削減しなければならない。
だが、インドが1947年に独立してから一度も財政黒字に転じていない主な原因は、その税基盤の貧弱さだ。
ゆえに財政を立て直すためには、政府は経済のさらに多くの部分を税の網の中に捉えなければならない。
■インドが追加利上げ、インフレ抑制狙う
スタグフレーションを終わらせるには、中央銀行の断固たる行動も必要だ。
インド準備銀行総裁のラグラム・ラジャン氏はインフレターゲットを設定したいとの意向だ。
新政権はラジャン氏を後押しし、このまま留任するよう説得しなければならない。
高い食品価格を引き下げるには、国営の農産物市場を廃止すべきだ。
こうした市場は多くの場合、農民から農産物を買い占める地方の有力者に牛耳られている。
機能不全のインド
3].3つ目の、そして最も重要な課題は、よりまともな雇用を創出することだ。
この半世紀にわたり、東アジアの大部分の国々は未熟練の農業従事者を工場で雇用することで繁栄してきた。
インドも今すぐ同じことをすべきだ。
インドでは今後10年、毎年1000万人以上が労働市場に加わる状況が続く。
中国では人件費が上昇し、企業は他国に生産拠点を移している。
日本企業は軍事的な緊張の高まりを受け、中国以外の国への多角化を急いでいる。
2010年以降、人民元に対するルピー相場は3割強下落しており、インドの労働者の競争力は増している。
これまでのところ、インドはせっかくのチャンスを逃している。
投資を希望する企業にとって、インドは生産に必要なエネルギーや労働力、土地へのアクセスが不確実で、しかもコストが高い。
また、海外企業にとって、課税は運任せのようなものだ。
その結果、米国のスーパーマーケット向けに布地や玩具を卸している香港の利豊などの商社によれば、
工場はインドではなくバングラデシュや東南アジア、アフリカに移転しているという。
もし製造業の中心地として競争したいのであれば、新政権は、
インドはビジネスができる国という評価を取り戻す必要がある。
政府の介入を減らすべき分野もある。
例えば、時代遅れの労働法は撤廃すべきだ。
一方で、安定した電力供給を実現したり、企業が土地を購入する契約を履行させたりするために、国がもっと権力を行使する必要がある分野もある。
この2つの施策を通じて、製造業の集積地づくりに大きく舵を切らなければならない。
■2つの道
インドには2つの道が選択肢として残されている。
1つ目は、インフラ面でさらに後れを取り、失業者が増える中で、世界での地位が低下していくのを黙って眺めている道だ。
2つ目は、財政の安定化に動き、生産的な民間部門を構築することで、若者が必要としている雇用が創出され、本当の意味での大国の仲間入りを果たす道だ。
どちらの道を選ぶかは新政権にかかっている。
© 2014 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】