●影の融資の成長が加速
『
2014.05.12(月) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40659
シャドーバンキングの魅力と落とし穴
(英エコノミスト誌 2014年5月10日号)
金融危機の一因となった影の銀行だが、うまく規制すれば、次の危機を回避するのに役立つだろう。
イングランド銀行総裁で、将来の金融危機を防ぐために立ち上げられた国際監視機関である金融安定化理事会(FSB)の議長も務めるマーク・カーニー氏は先ごろ、
世界経済にとって最大の脅威は何かという問いに対し、
新興国のシャドーバンキング(影の銀行)である
と答えた。
確かにシャドーバンキングは、世界的な悪鬼となるだけの資質を持っている。
巨大で、ある一定の形態で急速に成長し、しかもほとんど理解されていない。
強力なツールとして役立つ一方で、不用意に扱えば、爆発を引き起こす恐れもあるのだ。
FSBは、シャドーバンキングを「銀行以外の組織による融資」と定義する。
FSBの推定によれば、シャドーバンキングは世界の金融システムの4分の1を占めているという。
その資産は10年前には26兆ドルだったが、2013年初めには71兆ドルにまで増加した。
一部の国では、さらに急速に拡大している。
例えば中国では、2012年だけで42%の成長を遂げた。
だが、何をシャドーバンキングと見なすかについては、見解が分かれる。
核となるのは信用供与だ(融資を手がける中国の信託会社から欧米のピアツーピア=P2P=融資、マネー・マーケット・ファンド=MMF=まですべてを含む)。
だが、さらに広い定義では、銀行として規制されない企業が行うあらゆる銀行的な活動も含まれる。
例えば、英ボーダフォンが提供するモバイル決済システムや、IT企業が構築した債券取引プラットフォームや米ブラックロックが販売する投資商品などだ。
本誌(英エコノミスト)の特集記事でも解説しているように、そうしたサービスが急増しているのは、従来型の銀行の腰が引けているからだ。
従来型の銀行は、金融危機による損失に打ちのめされ、厳しさを増す規則や資本要件、果てしない法的トラブル、莫大な罰金に苦しめられている。
規模の縮小や融資の削減を進め、1部門を丸ごと整理しているケースもある。
例えば米国では、投資銀行はもはや、自己勘定での取引はできず、顧客の代理としての取引しか許されていない。
一方、英国の銀行は2007年以降、法人向け融資をほぼ30%も削減している。
英バークレイズは先日、最大1万4000人の従業員を削減する計画を正式に発表した。
そうした穴を埋めつつあるのが、影の銀行だ。
■脆き者よ、汝の名は銀行
付随的な事業での銀行との競合については、誰もあまり心配していない。
例えば、米グーグルが効率的な資金運用手段を提供できるとしたら、それは歓迎されるべきものだ。
議論の的になっているのは、信用供与だ。
ある意味では、銀行システム外の融資が広がっているのは良いことだとも言える。
銀行が規制されているのには、1つの理由がある。
銀行は大きな「マチュリティ・ミスマッチ」(主に短期で借り入れた資金を長期で貸し付ける)と膨大なレバレッジを抱え、他の金融機関と複雑に絡み合っている。
そのため、ことのほか脆い。
しかも、各国政府が預金を保証しているうえに、このように巨大で複雑な組織を破綻させるのを恐れてもいることから、銀行が苦境に陥れば、大抵は納税者がとばっちりを食らう。
従って、融資の一部が銀行を離れ、それほど危険ではない組織に移っているのなら、金融システムの安全性は高くなるはずだ。
そうしたことを考えれば、例えば英国の醸造業者が、銀行ではなく長期負債を保有する年金基金や生命保険会社から長期融資を受けるのなら、カーニー氏はもっと喜ぶはずだろう。
融資が悪い方向へ進んだ時、債権者は損失を被るが、レバレッジという爆弾や、複雑に絡み合う取引相手、即座に引き出しを求める預金者が存在しないため、1つの金融機関の損失が他の組織に損害を与える可能性は低い。
だが、規制が不十分な場合は、影の銀行は「光の当たっている」銀行に劣らず危険な存在になる恐れがある。
金融危機の主因の1つは、「ストラクチャード・インベストメント・ビークル(SIV)」だった。
銀行はSIVを法人として設立し、これを利用して融資を証券としてパッケージし直して販売した。
理論上は独立した組織だが、トラブルに陥った際には、設立した銀行が巻き込まれた。
不安定性のもう1つの源泉となったのがMMFだ。
企業や個人はMMFを通じて、使っていない資金を短期的に投資していた。
そうした投資はリスクのないものと考えられていた。
だが、そうではないことが明らかになると、MMFは取り付け騒ぎに襲われた。
■中国の影のマネー
その大失敗から、規制当局は有益な教訓を得た。
特に重大な問題を引き起こした影の銀行は、大きな「マチュリティ・ミスマッチ」を抱えていたか、損失を吸収するだけの資本を持っていなかったかのどちらかだった。
中でも厄介な問題となったのが、従来型の銀行が影の銀行に融資していたり、なんらかの救済手段を提供したりしていたために、トラブルが従来型の銀行に伝染してしまったケースだ。
当たり前の話だが、銀行ほど厳しくない規制体制を利用するためだけに生み出された影の銀行は、結局は銀行に劣らず脆く危険な存在だったのだ。
そうしたごまかしを不可能にするために、多くの国で新たな規則が制定されている。
例えば、銀行は今では、SIVを自行のバランスシートに含めることを義務づけられている。
取り付け騒ぎを防ぐために、MMFが保有すべき流動性資産の基準も引き上げられている。
レバレッジの制限も、様々な形態の影の銀行に対して既に課されているか、導入が検討されている。
だが、カーニー氏の懸念が示すように、影の銀行を安全なものにする取り組みは、まだ完全にはほど遠い。
例えば米国の規制当局は、一部のMMFが「絶対に損をしない」という印象を投資家に与えるのを、いまだに許している。
もっと誠実な態度を取らせるようにすべきだ。
しかし、さらに大きな危険は中国に潜んでいる。
中国では、規制逃れが危険なほどの規模で展開されている。
中国の銀行は、特定の業界への融資を拡大することや、高い利率を提示して預金を誘い込むことを禁じられている。
そのため、様々な種類の影の銀行を通じて、そうした活動を間接的に展開している。
その一方で、一部の企業が「擬似」銀行としての機能を持ち始めている。
ある造船会社は、利益の3分の1を金融事業から得ている。
採算性の悪い製鋼所や拡大しすぎた不動産開発業者に対する影の融資のすべてが回収されるとは考えにくい。
にもかかわらず、投資家の意欲は刺激されている。
融資が悪化した場合でも、これまでのところ、一連の救済措置により、投資家は損害の大部分から保護されているからだ。
■保護される資産を明確に
これは危機が進行しつつある状況と言える。
このせいで中国が倒れることはないだろう。
中国政府は、国有銀行を利用して危機の影響を和らげることができるし、事態を収拾するだけのふんだんな資金も持っている。
それでも、大きな犠牲を払うことになるだろう。
中国政府がどの資産が保護されているかを早く明確にすれば、投資家もそのぶん早く、もっとリスクに注意を払うようになるはずだ。
シャドーバンキングには金融の安全性を高めるだけの力がある。
だがそれは、いざという時に誰がお金を失うのかが明確な場合に限られるのだ。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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2014.05.15(木) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40680
中国のシャドーバンキング:暗闇との戦い
(英エコノミスト誌 2014年5月10日号)
規制当局が1つの形態のノンバンク融資を抑制するたびに、別のものが成長し始める。
上海から車で数時間行ったところにある靖江市では、揚子江船業がカナダの船会社シースパン向けに21隻の巨大なコンテナ船を建造している。
とてつもなく大きな標識は、「我々は中国で最高の造船所になる」と謳っている。
揚子江船業は昨年30億元(4億8100万ドル)の利益を上げており、間違いなく最も収益力の高い造船所の1つだ。
だが、造船から得た利益は、その3分の2程度にすぎない。
残りは、委託融資と呼ばれる中国の金融商品を使って、他社に資金を貸し付けることから上げていた。
これが揚子江船業を別の業界の最前線に立たせている。
シャドーバンキング(影の銀行)である。
今から10年前は、ほぼすべてが国有で厳しく規制されている従来型の銀行が、事実上、中国のすべての融資を占めていた。それが今は、まとめてシャドーバンクとして知られる信託会社、リース会社、信用保証会社、マネー・マーケット・ファンド(MMF)などの様々な代替的金融業者から信用(クレジット)を得ることができる。
これらの貸し手の多くは完全に立派な会社だが、それ以外は、銀行がどれだけの資金をどの企業にどんな金利で貸し出せるのかといった多くのルールをすり抜けるためのあからさまな試みだ。
■急成長するシャドーバンキング
銀行融資は、今なお影の融資よりはるかに大きく、依然驚くべき速さで拡大しているが、最近はその伸び率が安定してきた。
対照的に、特に気掛かりな形態の一部の影の融資の成長は加速している(上図参照)。
昨年は、シャドーバンクが融資の伸びのほぼ3分の1を占め、その過程で50%以上も拡大した。
これまでのところ、中国のシャドーバンキングに関する懸念の大半は、信託融資に向けられていた。
信託会社は、最大10%の高利回りを提供することで、政府が銀行預金に課している低い上限金利に不満を抱く企業や個人から資金を集めている。
信託会社が借り手に課している金利は、当然ながらもっと高い。
信託会社は、不動産や鉄鋼など、多くの場合バブルめいた業界で事業を営んでいるために銀行から借り入れができない企業に融資している。
これらの業界では、規制当局が過剰投資の兆候を察知し、そのため銀行に融資を抑制するよう指導している。
揚子江船業の融資の5分の2以上は比較的小さな中国の都市の不動産デベロッパー向けで、土地がその担保の3分の2近くを占めている。
一方、中国経済は減速している。
過去2年間の成長率は7.6%で、1990年以降では最も低い伸びとなっている。
その多くに投資していた投資家は何らかの形で資金を取り戻しているものの、いくつかの信託商品はデフォルト(債務不履行)している。
今年は4000億ドル相当以上の信託商品が満期を迎える予定だ。
そして借り手はこうした融資の多くを借り換えたいと思うだろう。
多くの観測筋は、投資家が信託会社に対する信頼を失い、それが取り付け騒ぎを引き起こし、今度は取り付け騒ぎが特定の業界や金融システムの他の部分を傷つけるのではないかと懸念している。
近年の中国と同じくらい急速にあらゆる形態の信用が成長するのを目にしながら
金融危機を経験せずに済んだ国は1つもない、
と悲観論者たちは指摘する。
一方、楽観論を裏付ける1つの根拠は、信託会社が、銀行を監督しているのと同じ機関、中国銀行業監督管理委員会(CBRC)によって規制されていることだ。
かつて信託会社を監査していた独立系専門家のジェイソン・ベッドフォード氏によれば、このことは、CBRCが信託会社自体がぐらついているかどうかだけでなく、何らかのぐらつきが生じた場合に銀行にどのような影響を与えるかも判断できることを意味するという。
■まさに「いたちごっこ」
●規制強化を受けて、お金が流れる先が変わってきている〔AFPBB News〕
本誌(英エコノミスト)の今週号の特集記事が説明しているように、CBRCその他の規制当局は最近、信託会社への監視を強めており、より明確な会計を求めたり、銀行との取引を制限したりしている。
規制当局が信託会社に対する締め付けを強めている今、資金は信託会社以外のあまり厳重に監視されていない仲介業者に流れている。
「中国のシャドーバンキングはいたちごっこのように見える」と証券会社GFセキュリティーズ(広発証券)のチーフエコノミスト、リウ・ユフィ氏は力説する。
例えば、銀行と信託会社が協力できる方法を制限するCBRCの規制は、証券会社には適用されない。このため証券会社が運用する資産が急成長してきた。
昨年末にはこうした資産が5兆2000億元まで膨れ上がり、前年の1兆9000億元から急増した。
場合によっては、証券会社が、自らが投資家に販売する「理財商品」の裏付けとするために銀行が提供したローンを使っていることもある。
一方で、新たなルールにもかかわらず、信託会社が同じことをできるように、証券会社が仲介業者の役目を果たすこともある。こうした戦略によって、銀行は実質的に、銀行融資に対する様々な規制を回避することができるわけだ。
銀行と信託会社との取引に対する規制を回避するもう1つの方法が、信託受益権商品(TBR)だ。
まず銀行が信託会社からローンを買い取る会社を設立する。そしてこの会社が、これらのローンから得られる収入に対する権利をこの銀行に売却する――こうしてTBRが誕生する。
この銀行は、TBRを別の銀行に売ることもできる。
その目的は、リスクの高い企業向けローンをより安全な銀行間融資のように見せることで、自己資本規制や最低限の預貸率といったルールを回避することだ、とベッドフォード氏は言う。
委託融資もまた、急成長しているシャドーバンキングの一形態だ。委託融資では、資金力のある企業(有力なコネを持つ国有企業であることが多い)が、あまりコネのない企業に融資する。揚子江船業の最高財務責任者(CFO)、リウ・ファ氏の説明によると、今では融資の提供で競合する国有企業が非常に多くなっているため、同社は融資の金利を年15%から年10%近くまで引き下げざるを得なくなっているという。
こうした融資を禁じる規制を避けるために銀行を仲介役として使って実行されることが多いこれらのローンは、金融部門をさらに大きなリスクにさらしている。
3月には、新規委託融資の総額が2390億元に達し、前年比で640億元増加した。
今年1~3月は、委託融資を通じた企業の借入額が7160億元に上った。これに対し、同期間の社債発行額はわずか3850億元だった。
委託融資だけが企業が別の企業に融資する方法ではない。
アリババをはじめとする起業家精神に溢れた多くの企業の本拠地になっている杭州市は、中国の最も豊かな都市の1つだが、この街は今、静かな金融危機に見舞われている。
小さな製鉄や繊維会社を経営する多くの起業家は、正式な銀行から融資を受けるのが難しいため、一致団結している。
複数の報道によると、企業は複雑に絡み合うクモの巣のような関係を築いて互いの債務を保証し合い、これが好況期に誰もが融資を受ける助けになったという。
ところが今は景気が減速しているため、弱い企業がデフォルトし始め、健全な企業の足も引っ張り始めている。
広東州の鉄鋼商社、浙江省の化学品メーカー、山西省の石炭採掘業者やエネルギー企業も同様のネットワークを形成しているようだ。
中国の国営通信社、新華社は、これらの業界の一部では、行使された保証が、最初にデフォルトした企業を保証している企業の「最初の輪」から「2番目」や「3番目」の輪、つまり保証人の保証人に広がっていると伝えている。
■懸念される悪循環
シャドーバンキングの危機が実体経済に広がる可能性があるのと同様に、一部のセクターでの急激な業績悪化がシャドーバンクに問題をもたらし、より広範な金融の混乱につながる可能性がある。
多くの信託融資は不動産で担保されており、多くのデベロッパーはシャドーファイナンスに依存しているが、高騰する中国の不動産市場は、特に比較的小さな年で冷え込みの兆候を見せている。
心配されるのは、不動産バブルの破裂がシャドーファイナスでのパニックにつながり、それが信用へのアクセスを低下させ、不動産価格と経済成長を一段と押し下げるという悪循環だ。
状況はどれくらい悪くなる可能性があるのだろうか?
コンサルティング会社IHSは先ごろ、このような不動産市場の暴落があった場合には、
中国の国内総生産(GDP)成長率が今年予想されている7.5%から6.6%に、来年は4.8%に低下する可能性があると予想した。
これは世界の終わりのようには聞こえないかもしれないが、中国の基準からすれば、憂慮すべき減速だ。
■規制当局が直面する正真正銘ジレンマ
こうした状況は中国の規制当局に正真正銘のジレンマを突きつける。
規制当局は長年、融通の利く深みのある資本市場を発展させたいと願ってきたし、シャドーバンキングはその自然な一部だった。
実際、中国はローンの証券化のような特定の形態のシャドーバンキングの拡大から恩恵を受けるだろうという議論もある。
ある種の融資は明らかに手に負えなくなっているが、損失は管理可能なはずだ。
中国のシャドーバンクが盛んに駆使する様々な口実にもかかわらず、そのローンには大抵まともな担保が付いている。
システムに対する最大の脅威は、規制当局がシャドーバンキングを抑制するために過度な強硬策を講じることによって、間違ってシャドーバンクへの取り付け騒ぎを引き起こしてしまうことだ。
そうする代わりに当局は、用心しながら動き、ゆっくりと規制を強化し、時折小さなデフォルトを認めている。
しかし、このような規制を微妙に調整することは難しい仕事になるだろう。
格付け機関のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、改革によって「国内市場が必死でリスクを再評価する中で資金供給が枯渇しかねない波乱の時期」が生じる恐れがあると述べている。
丁重な言い方で、中国のシャドーバンキングの混乱から抜け出す簡単な方法はないと伝えているのだ。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
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シャド-バンキングは複雑怪奇でチョットヤソットでは理解できない。
分かることはいわゆる自転車操業に近いということだろう。
親玉の中国経済が減速したら、とたんにお金の流れはとまり、バブルが弾ける可能性が高いということのようだ。
【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】
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