●JNNニュース
『
レコードチャイナ 配信日時:2014年5月14日 6時50分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=87989&type=0
戦争のふちに一歩ずつ滑り込む南シナ海―仏メディア
2014年5月12日、仏国際ラジオ放送・RFI中国語版電子版は、
「南シナ海は一歩ずつ、戦争のふちにと滑り込んでいくのか」
と題する記事を掲載した。
以下はその概要。
南シナ海では、中国がパラセル諸島(中国名:西沙諸島)近海に石油掘削装置を設置したことに端を発し、中国とベトナムの船舶が衝突した。
ベトナムの首都では11日、中国に抗議するデモが行われた。
スプラトリー諸島(中国名:南沙諸島)のハーフムーン礁(中国名:半月礁)沖でも、中国漁船がフィリピン当局に拿捕(だほ)されるなど、緊張が高まっている。
「南シナ海のほぼ全域が中国に属する。
ベトナムやフィリピンは干渉する権限はない」
と主張する中国に対し、フィリピンは国際仲裁裁判所に訴状を提出している。
中国の南シナ界における主権主張に反対する国は、この2カ国以外に、ブルネイとマレーシアがある。
台湾も同地域で主権を主張している。
中国がパラセル諸島近海に石油掘削装置を設置したことついて、
国際社会は、その目的が純粋な石油掘削にはない
と読んでいる。
北京政府に近いメディアは、
「フィリピンとベトナムが中国に難癖をつければ、中国は実力で紛争解決を図るだろう」
と報じている。
中国による石油掘削装置の設置にベトナムが強く反対するのは、南シナ海の現状変更につながりかねないためだという指摘がある。
習近平(シー・ジンピン)政権の、強硬で少しも譲歩しようとしない姿勢に、米国も懸念を示している。
11日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、南シナ海問題について「深刻な懸念」を表明した。会議ではほぼすべての時間、南シナ海問題に対する議論に費やされた。
南シナ海情勢は険しさを増している。
実力による解決は、最終的にどのような結果をもたらすのだろうか。
』
尖閣問題で手痛い敗北を日本に喫してしまった中国。
あれだけ煽ったのに何も出来ずにスゴスゴと引き下がるしかなかった。
中国の腹の中は屈辱で煮えたぎっている
だろう。
それをどこかで晴らしたい、というのが中国がいま一番欲していること。
かわいそうに、
その標的にされたのがベトナム。
石油掘削などはポーズであることは明明白白。
事を起こしパワーを行使することによって解決する、
ということで溜飲を下げるのが目的。
尖閣では日本の軍事力の前に手出しができなかった。
不満やる方なくも指をくわえて下がるしかなかった。
その積りに積もったウラミをここで晴らそう、と。
まったくいい迷惑なのがベトナムである。
とんだトバッチリである。
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2014.05.14(水) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40674
中国とベトナムの衝突、観測筋が首ひねるタイミング
(2014年5月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
昨年10月、李克強氏が中国首相として初めてベトナムを訪問した時、この訪問は、南シナ海を巡って緊張が高まる中で近隣の東南アジア諸国との関係改善を図る中国政府の大きな取り組みの一環と見なされた。
李首相は当時ハノイで、中国とベトナムは共同海洋開発について協議するグループを創設すると述べた。
南シナ海に関する中国政府の研究機関「中国南海研究院」の呉士存院長は、両国は
「南シナ海の危機を共同で管理することで合意に達し、海上摩擦を和らげるようになる」
と述べた。
■中国側の「挑発」で関係改善の流れが一転、南シナ海でにらみ合いに
だが、それから6カ月経った今、中国政府がパラセル(西沙)諸島近くの係争海域に油田掘削装置を設置したことから、両国関係は再び暗礁に乗り上げた。
米国は中国側の行動を「挑発的」と評している。
ベトナムは声高に抗議し、問題の海域に数十隻の艦船を派遣。
現地で中国艦船と衝突した。
中国は多くの近隣諸国と領有権争いを繰り広げているが、専門家らは、最近の対ベトナム関係の改善を台無しにするような中国側の行為を理解するのに苦しんでいる。
オーストラリア国防大学のベトナム専門家、カール・セイヤー氏は、掘削装置の設置は「完全に予想外だった」と語る。
1974年の短い戦争でパラセル諸島を中国に奪われたベトナムは近年、対中関係とのバランスを取るために、米国に多少接近した。
この姿勢の転換を浮き彫りにするように、レオン・パネッタ氏は2012年、米国防長官として30年ぶりにカムラン湾――ベトナム戦争の最中に米軍艦船の主要港だった場所――を訪問した。
過去1年間で、中国と日本、そして中国とフィリピンの緊張関係が高まったが、ベトナムは中国政府を怒らせるような行動はほとんど取ってこなかった。
「ベトナムがやったことで、今回の中国の行動を引き起こすようなことは何も思いつかない」
とセイヤー氏は言う。
「これは改善傾向にあった関係を後退させる行為だ」
■米国の強硬姿勢に反発? ベトナムの反応を読み違えた?
ボストン・カレッジのロバート・ロス氏をはじめとした一部の中国専門家は、中国政府は、米国が最近、中国に対して言葉の上で強硬路線を強め、中国が南シナ海の大半の領有権を主張するために使う「九段線」の明確な説明を求めたりしていることに対応していると考えている。
ロス氏は、ベトナムが昨年12月に日本の安倍晋三首相に対し、巡視船の供与を要請したことについても中国が怒っている可能性があると指摘する。
日本の外務省は、日本政府はこの要請を検討していると話している。
だが、ほかの人たちはそれほど確信を持てない。
彼らによると、米国のバラク・オバマ大統領は最近アジアを歴訪した際、中国との領有権問題を抱える国々への支援を申し出たが、最も力強い言葉と行動は、ベトナムではなく日本とフィリピンへの支援に向けられていた。
米国政府とフィリピン政府は、米軍がフィリピン国内に艦船や航空機を配備できるようにする防衛協定に署名した。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の中国専門家、テイラー・フラベル氏は、中国とベトナムが最近、海上問題に関するワーキンググループの会合を開いたことを考えると、掘削装置設置はとりわけ不思議だと述べている。
同氏によると、この決断は、比較的新しい深海油田掘削装置を持つエネルギー会社、中国海洋石油総公司(CNOOC)が後押ししたことも考えられるという。
「もしかしたら中国側は誤って、パラセル諸島の近くでの油田掘削は激しい反応を引き出さない、
ベトナムは中国との関係改善を危険にさらしたくはないだろう、
と考えたのかもしれない」
■中国の言行の不一致が露呈
●ベトナムで過去最大規模の反中デモ、南シナ海での衝突に抗議
5月11日、ベトナム・ハノイの中国大使館前で行われた反中抗議デモ〔AFPBB News〕
どんな計算が働いたにせよ、中国側の行動は激しい反応を引き起こした。
ベトナムは通常、国内での抗議デモに対して厳しい態度を取るが、先週末は、数百人のデモ隊がハノイの中国大使館の近くで抗議するのを容認した。
北京にあるカーネギー清華センターの所長を務めるポール・ヘンリー氏は、中国の新指導部は昨年、東南アジアに対する「微笑み攻勢」に乗り出したが、東シナ海上空での防空識別圏(AIDZ)設定などの最近の行動は、中国の言行の不一致を露呈させたと指摘する。
「油田掘削装置の出来事と、予想外だったADIZの設定の発表は、地域外交を改善させようとするその他の取り組みに反しているように見える」
と同氏は付け加える。
前出の呉氏は、ベトナムはかねて中国がパラセル諸島――中国はこの諸島について、領有権問題が存在することを認めていない――の近くで掘削することを知っていたが、緊張を煽った責任の一端は米国と同国のアジアへの「ピボット」にあるとし、
「中国と近隣諸国との問題――特に海上問題――はすべて、舞台裏で米国の影響力が拡大していることを示唆している」
と話している。
海上での領有権主張に対する国内の支持を高める取り組みの一環として、中国の国営テレビは昨年12月、南シナ海に関する8部構成のドキュメンタリー番組を放映した。
呉氏いわく、これは他国による間違った領有権主張に反論する狙いだという。
By Demetri Sevastopulo in Hong Kong
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『
JB Press 2014.05.14(水)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40673
中国とベトナムに大規模な軍事衝突はあるのか?
長く抗争に明け暮れた中越間で緊迫する南シナ海情勢
中国とベトナムをめぐる南シナ海の状況が緊迫している――。
5月3日、中越間での領土帰属問題がある南シナ海の西沙諸島近海において、中国海洋石油が大規模な石油掘削を発表したのが事の発端である。
両国とも、掘削予定エリアは、それぞれの排他的経済水域にあたるとしてお互いを批判。
その後、ベトナムと中国の船舶が衝突する事態に発展した。
■南シナ海に眠る巨大な資源
同地域がセンシティブなのは資源埋蔵量が巨大と言われているためだ。
報道によれば、中国海洋石油は、石油が世界最大級の産油国サウジアラビアの埋蔵量のほぼ半分に相当する1250億バレル、天然ガスも500兆立方フィートと試算している。
●ベトナム・ホーチミンで行われた反中抗議デモ〔AFPBB News〕
石油はベトナムにとっても重要な資金源で、国有石油会社ペトロベトナムは国の歳入の3分の1近くを担う。
これまで、南シナ海の領土をめぐる小競り合いは中越間で何度もあった。
しかし、ベトナムは中国共産党との関係を考慮し、中国の動きを牽制しつつも表面上は友好関係を保ってきた。
ただし、今回は資源が絡んでいるため、ベトナム政府は公式に中国を批判、反中国デモも容認する構えを取っている。
しかし、南シナ海問題でベトナム政府が中国との対立を単純に先鋭化させる可能性は、現実的にはほとんどない
だろうと推測する。
同じく中国との領土問題を抱える
ASEAN各国プラス日米と共同で、中国にプレッシャーをかけるというのが、ベトナム政府が取りうる唯一の現実的な対抗手段だろう。
こうしたベトナム政府の考え方を理解するために、ベトナムにとっての中国関係をもう少し掘り下げてみたい。
■ベトナムの歴史は対中抗争の歴史
ベトナムの歴史は、19世紀後半にフランスの植民地支配が始まるまでは、うんと大雑把に言ってしまえば、中国との戦いの歴史である。
丁(Dinh)王朝が966年に初めて独立王朝を成立させるまで、ベトナムは約1000年にわたり中国の支配下にあった。
ハイ・バー・チュン(チュン姉妹)やバー・チュウなど、今もベトナム主要都市の目抜き通りに名前を残すベトナムの古代の英雄は、中国との戦いで活躍した人々である(余談ながら、この3名の戦士は女性である。
ベトナムは今でも女性の方が優秀な人物が多いが、歴史的に見て著名な将軍が女性だったということと相関がある気がする)。
近代になって、同じ社会主義を標榜する国家が各々に成立してからも、両国関係は対立する。
ベトナム戦争中、中国は北ベトナムに対して多額の軍事援助を行っていた。
しかし、1972年、北ベトナムの頭越しに中国が米国と和解を進めたことで関係が悪化。
北ベトナム軍は中国の進言を聞き入れず、武力で南ベトナムを制圧する。
さらに、1979年にはカンボジアへの対応の対立をめぐり、中国軍がベトナム領内に短期間だが軍事侵攻した(中越戦争)。
中越国交が正常化したのは、1991年。
今からわずか20年前に過ぎない。
しかし、その後も南シナ海の領土をめぐっての小競り合いが続いている。
こうした歴史的な深い因縁は、現代のベトナム人に2つの影響をもたらしている。
★.1つ目は、一般国民の圧倒的な反中国感情である。
これは、昨今の日本人の対中感情の比ではない。
日本人はいろいろな感情はありながらも、自分たちの思想の源流となっているかつての中国文明に敬意を持っている人も多いと思う。
しかし、同じように中国文明の影響を多大に受けているベトナム人の間には、こうした考え方は希薄な印象を受ける。
ベトナム人は、決して政治的な国民ではない。
むしろ、現在でもベトナム人には国民国家の意識が醸成されていない。
ただし、対中感情という意味では、彼らは突如として政治的・国民国家的な色彩を帯びる。
「フランスや日本の支配はせいぜい数十年だが、中国は1000年居座る」
とベトナム人は中国への警戒感を表現する。
★.長い中国との抗争のもう1つの影響は、
「中国には勝てない」という極めてプラグマティックな考え方をベトナム人の間に浸透させたことだろう。
ベトナムは小国であることを認識し、
国際社会の力学の中で胞子のように浮遊して生き残る術を学んできた。
その結果、もし南シナ海で中国がさらに強気な行動に出ても、諸外国との協調によって戦闘は避けるというのがベトナム人のDNAには刷り込まれているという印象を受ける。
■強い中国との経済関係
一方、経済的に見ても、中国は年間貿易額が500億ドルになるベトナムの最大の貿易相手国である。
中国からはベトナム北部を中心に生活雑貨品などが大量に輸入されている。
工業化の遅れているベトナムでは、簡単な工業製品でも国内で作れないことが多いため、中国からの廉価な商品に頼らざるを得ない。
こうした中国との経済的なつながりも、対中関係の悪化を抑止する要因である。
ただし、ベトナム経済の場合、国内の華僑による影響がきわめて少ないという点は、他の東南アジア諸国と事情が異なる。
ホーチミンの南西部に広がるチョロンという華人居住地区がある。
明末に亡命してきた華僑によってつくられた街で、華僑人口は1970年代には50万~100万人と言われていた。
フランス植民地時代は、ベトナム人の経済活動には強い制限があったが、中国人に対してはその制限が弱かったため、メコンデルタの大穀倉地帯で米の流通を握ったのは華僑であった。
ベトナム人は頭の良い民族だと思うが、当時はほぼ全国民が農民でしかない。
農民に高度な商業統治機能はなく、少なくとも華僑商人ほど商業には精通していなかった。
しかし、この巨大な華僑人口は1975年のベトナム戦争終了直後に霧消する。
ベトナム共産党がチョロンに住む中国人の財産を没収し、強制的に国外退去させた。
その結果、ベトナムは、東南アジア諸国の中で圧倒的に華僑人口の少ない国となった。
このベトナム政府による華僑に対する弾圧は、政治的には両国にとっての遺恨となった。
また、多数の華僑が国外追放されたことは、ベトナム国内で反中感情を形成しやすい要因にもなっていると思える。
■日本やフィリピンの対中方針との違い
要すれば、国民の間での対中感情は非常に険しいが、南シナ海問題でベトナム政府が中国との対立を先鋭化させる可能性は、政治的にも、経済的にも、非常に小さい。
これは、中国との間に同じように緊迫した領土問題を抱える日本やフィリピンとは少し異なる点である。
日本・フィリピンの両国は、ベトナムのように中国と陸続きでなかったこともあり、中国に対する軍事的な従属意識が歴史的に形成されることはなかった。
また、現在は、同盟関係による明確な米軍の後ろ盾があるため、ベトナムと比べて対中国戦略は相対的にかなり強気である。
ベトナムは中国との国力の差を強く認識し、小国としてのプラグマティックな考え方に徹している。
そういう意味では、メンツなどあまり意識していない。
また、ベトナム戦争の経緯もあるため、これまで米国との軍事的関係を強化するのは、なかなか難しかったという事情もある。
なお、ここ最近、米国とベトナムとの軍事的な結びつきは拡大している。
中国政府からの抗議を受けつつも、2010年以降、米軍艦がベトナム中部のダナン港やカムラン港(日露戦争当時のロシア軍のバルチック艦隊が日本海海戦を前に補給を行った港として有名)に寄港し、米越間の共同演習や軍事交流の実績が積み重ねられてきている。
すぐに中越間での紛争が現実化する可能性は低い。
ただし、中国の南シナ海への膨張は明らかになりつつあり、ベトナム政府は今後政治的に慎重な舵取りが要求されるだろう。
細野恭平 Kyohei Hosono (株)ドリームインキュベータ(DI)執行役員、DIベトナム社長
東京大学文学部卒業(スラブ語)、ミシガン大学公共政策大学院修士
1996年、海外経済協力基金(後に国際協力銀行)に入社。
旧ソ連(ウズベキスタン、カザフスタン等)向けの円借款事業や、途上国の債務リストラクチャリング、ODA改革等に従事する。途中、ロシア・サンクトペテルブルクにてロシア語を習得。
2005年、DIに参画し、大企業向けのコンサルティングやベンチャー企業向けの投資に従事。
2010年から、ベトナムに駐在。DIアジア産業ファンド(50億円)を通じたベトナム企業向けの投資、ベトナムに進出する日本企業・ベトナム政府/企業向けのコンサルティングなどを手掛ける。400社以上のベトナム現地企業と接点があり、ベトナムの幅広いセクターに精通している。
』
『
WEDGE Infinity 2014年05月14日(Wed)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3844
ベトナムとの衝突は必然
南シナ海確保に必死な中国の「関心」の変化
2014年5月7日、中国海警の船舶とベトナム海上警察の船舶が、南シナ海の西沙諸島周辺海域で衝突した。
中国及びベトナム双方が権利を主張する海域で、中国の石油企業が掘削作業を開始したことが原因である。
これに対してベトナムが掘削作業阻止のために船舶を派出し、中国船がこれを排除しようとしたのだ。
■南シナ海は中国にとって死活問題
問題は、中国船がベトナム船に体当たりしたということではない。
船舶が武器を使用せずに船舶の近接を阻止するために船体をねじ込むといった方法は採り得る行動だとも言える。
現在入手し得る情報だけでは、衝突がどのようにして生起したかを理解することは難しい。
問題は、中国企業が係争海域で実力行使に及んだことだ。中国が海警の船舶や海軍の艦艇を含む大量の艦船を送り込んだのは、ベトナムが強硬な妨害活動を行うことを予期していたからだと言える。それにもかかわらず、中国企業は採掘作業を強行したのだ。
最近の中国の対ベトナム外交を見ていると、何故この時期に強行したのか、違和感が残る。
現指導部に対する中国国内の批判や圧力が指導部の態度を変えさせた可能性もある。
また、石油利権は現在の中国国内では非常に敏感な問題である。
石油利権集団とこれを叩いて自ら掌握したい習近平指導部との間の権力闘争が関与している可能性もあるのだ。
しかし、である。
実力行使に及んだ時期の問題はあるにしても、大きな流れから言えば、ベトナムやフィリピンが中国に対する強い抗議活動を展開すれば、遅かれ早かれ、中国は実力行使に出ることになる。
軍事衝突も辞さない。
中国は、南シナ海における権利については、引き下がることをしないからだ。
南シナ海は、中国にとって死活的に重要なのである。
■軍艦の凄まじい建造ペース
南シナ海が中国にとって死活的に重要だということは、中国海軍艦艇の配備状況に見ることができる。
2012年9月、中国海軍初の空母「遼寧」が就役した。
現在、上海と大連で合計2隻の空母を建造中である。
空母は、駆逐艦、フリゲート、潜水艦とともに、空母戦闘群を形成して行動する。
中国では、中国版イージスと呼ばれる駆逐艦が大量に建造されている。
2010年からの4年間で、8隻ものイージス艦が進水する。
さらに、最新フリゲートの建造ペースも凄まじい。
1999年に1番艦が建造されて以来、すでに16隻が就役している。
2010年以降、平均年3隻が就役しており、2014年には4隻が就役予定だ。
すでに契約が終了しているものを考慮すると、2020年から2025年の間に、中国海軍は20隻以上のイージス艦及び40隻前後の最新フリゲートを保有する。
しかし、北海・東海・南海艦隊に加え、2個空母戦闘群を運用しようと思うと、これでは足りない。
これを埋めるのが比較的小さいコルベットの大量建造だ。
大型艦が中国から離れて行動するため、中国近海の防御が手薄になるのを防ぐためである。
■中国海軍の「関心」の変化
1990年代には、中国海軍は「北海艦隊が最強」と言ってきた。
これは、北海艦隊が首都防衛の任務を帯びていたからだ。
陸軍的発想である。
侵攻する敵を、島陰に隠れて待ち伏せするといった作戦が考えられていた。
当時は、戦略原潜も北海艦隊に配備されていた。
しかし、海軍の意識は、2000年代に入って変化する。
2004年当時、海軍の運用を外国海軍から学ぼうという運動が展開されている。
また、同じ時期、中国海軍の将校たちは、「台湾が中国海軍の太平洋への入り口になる」ということをよく口にしていた。
この言葉は、台湾問題に対する本気度と太平洋への進出の意志を示すものである。
この頃、中国海軍の最新艦艇は東海艦隊に集中して配備されている。
ロシアから購入した駆逐艦や潜水艦などだ。
当時、中国国産駆逐艦には技術的問題があった。
信頼性や性能で勝る艦艇の配備は、中国が、東海艦隊の担当海域における軍事衝突の可能性を認識していたことを意味する。
相手は台湾であり、台湾の背後にいる米海軍である。
この時期、最新のフリゲートも東海艦隊から配備されている。
現在、最新艦艇は重点的に南海艦隊に配備されるようになった。
海南島の榆林海軍基地の建設状況等から、空母は南海艦隊で運用されると分析されているが、空母戦闘群を形成すると思われる駆逐艦及びフリゲートの配備も進む。
最新の性能向上型を優先して南海艦隊に配備しているのだ。
そして、最新型の戦略原潜や攻撃型原潜も海南島の基地に配備された。
中国海軍が指向する方向が南へと変化してきたのだ。
■「陸と海の新シルクロード」
しかし、中国の視線は南シナ海だけではなく、さらに西を向く。
「西進」戦略だ。
中国の空母戦闘群は米海軍の空母戦闘群と海戦を行うためのものだとは思えない。
中国の空母戦闘群構築が性急すぎるからだ。
作戦を理解しなければ艦艇はデザインできない。
しかし、訓練空母が就役してから1年半、中国は空母の運用さえ確立していないだろう。
それにもかかわらず中国が空母戦闘群の構築を急ぐのは、別に目的があるということだ。
中国の経済活動に不可欠なエネルギー資源は、今や多くを輸入に頼っている。
中国は、海上輸送が米国によって妨害されるのを非常に恐れている。
チョークポイントであるマラッカ海峡を通峡しない代替輸送ルートを建設する一方で、南シナ海の海上交通は完全に管理したいと考えるだろう。
習近平主席が述べる「陸と海の新シルクロード」である。
しかし、中東を経てヨーロッパへと延びる新シルクロードを活性化するために邪魔になるのもまた米国だ。
中国は、米国だけが世界中に軍事プレゼンスを示せる現状に危機感を抱いている。
米国が自国に有利な地域情勢を作り出し、中国の権益を脅かすことを恐れるのだ。
中国が空母戦闘群構築を急ぐ理由はここにある。
米国に対抗する軍事プレゼンスを示し、中国に有利な地域情勢を作り出すためなのだ。
地域に影響を及ぼすためにはその地域で軍事プレゼンスを示すだけでは十分ではない。
米国に邪魔をさせないことが重要だ。
そのために中国が力を注ぎ続けているのが核抑止力である。
中国は、2013年12月にも、新型ICBM(大陸間弾道弾)であるDF-41の発射試験を成功させている。
米国が懸念を示すのは、中国の意図だ。
中国が米国と対等の抑止力を有し、世界中の地域に軍事プレゼンスを示せるようになったとしたら、中国はどのような行動をとるのか?
米国が不安を抱くのはこの点である。
■米国はASEANと水面下での外交を
中国の軍事増強の目的が、戦闘ではなく軍事プレゼンスを示すことであり、
核抑止を以って米国の行動を抑えようとすることは、
「中国に日本や米国と戦争する意図はない」ことを示唆するものでもある。
しかし、これは、安心してよいという意味ではない。
国際社会の秩序の変化は、非常に深刻な事態であるとさえ言える。
米国はこの意味を理解するからこそ、抑止力の維持と中国との危機管理メカニズムの強化を続ける。
一方で、中国にとって、「国際社会の秩序の変化」を実現するために南シナ海の確保は絶対条件である。
中国は、自身にも甚大なダメージを与えるであろう日米との戦争は避けるとしても、南シナ海での中国の活動に抵抗する東南アジア各国との軍事衝突は辞さない。
さらに、今回の中国とベトナムの衝突は、必ずしも政府が望まなくとも、外交的合理性に欠けても、衝突は起こり得ることを示している。
更に中国は、5月中旬から下旬の期間に、南シナ海において中露合同演習を計画していると聞く。
ロシアが躊躇している可能性もあるが、この計画は、南シナ海を確保するためには軍事力の使用を辞さないという中国の決意を示すものだ。
ロシアを引き込むのは米国に対する牽制である。
中国もベトナムも実力行使を躊躇しないのだから、小規模の衝突が継続するのは必然だと言える。
この危機のエスカレートを抑えるのは、米国とASEAN諸国の水面下での外交活動しかないのかもしれない。
小原凡司(おはら・ぼんじ) 東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’sを経て、13年1月より現職。
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ウォールストリートジャーナル 2014 年 5 月 15 日 09:47 JST
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304408504579562652617027202?tesla=y
西沙諸島紛争で反中国感情が爆発
-選択肢少ないベトナム
By TREFOR MOSS And VU TRONG KHANH 原文(英語)
ベトナムは、中国が西沙諸島沖合に設置した大型石油プラットフォーム(リグ)を撤去させようと努力しているが、国内では一般市民の反中国感情の高まりと、経済的な対中依存ならびに軍事的な劣勢という現実との間で、うまくバランスをとる必要に迫られている。
ベトナム経済は中国からの輸入品に大きく依存しており、勝ち目のない軍事衝突は回避しなければならないからだ。
14日には、ホーチミン市近くで中国系の工場を標的にした反中国抗議行動が発生した。
台湾系の工場も狙われた。
一般市民の間で中国の石油リグをめぐる怒りが高まっており、対中報復を政府に求める圧力が増していることを鮮明にした形だ。
衣料・靴生産の中心地であるビンズオン省では、地元当局によれば15工場が放火され、その他の幾つかの工場も被害を受けた。
逮捕者は数百人に達したという。在ベトナム台湾代表部は、少なくとも200の台湾系工場が略奪ないし焼き討ちに遭ったと述べた。
中国外務省は同日、ベトナムの駐中国大使を呼び、中国系工場に対する暴動に不快感を示すとともに、現在の緊張を高めているのはベトナムだと非難した。
同省の華春瑩報道官は
「最も声高に叫んでいる者が必ずしも正しいわけではない」
と述べた。
台湾系工場が暴動の標的になったことは、今回の中越紛争における台湾の付随的な役割を浮き彫りにしている。
台湾政府(当局)は近年、南シナ海における領有権の主張を積極的には主張していない。
ホーチミン市にある台北経済文化代表処(領事館に相当)のChen Bor-show処長は、ビンズオン省で操業している台湾企業は1000以上に上ると述べ、
「われわれは現段階で、どの程度被害を受けたか分からない。
工場の所有者はだれも現場に戻ろうとしないからだ」
と語った。
ビンズオン省にある台湾商工会のTsai Wan-chen会長は台湾の衛星テレビ局CTiTV(中天電視)とのインタビューで、
「われわれは台湾人であって中国人ではないと暴徒たちに言い続けているが、彼らは耳を貸そうとしない」
と述べ、台湾企業関係者とその家族数百人が近くのホテルやその他の場所に避難していると語った。
ベトナムの当局者は、暴動に懸念を表明した。
ビンズオン省のTran Van Nam人民委員会副会長は
「暴動を深く憂慮している。
外国企業にとって魅力的な投資先としてのビンズオン省のイメージを損ないかねないからだ」
と述べた。
同副会長は、同省にある工業団地では13日、労働者1万6000人が中国の石油リグ配備に対する抗議行動に参加したと述べた。
日本やフィリピンも中国との間で領有権紛争に巻き込まれている。
だが、ベトナムは日比両国と比較すると、中国の攻撃的行動に対して取り得る選択肢に乏しい。
ベトナムは中国との対決で、自国を支援してくれる同盟国がない。
これに対し日本とフィリピンは、オバマ米大統領が先月、両国を含むアジアを歴訪した際、同大統領から米国との長期的な防衛条約について順守の保証を取り付けたばかりだ。
またフィリピンは中国との間の貿易が比較的少ないのに対し、ベトナムは中国との貿易に大きく依存している。
とりわけ中国から素材を輸入してそれを独自の工業製品に加工している。
ベトナムの総輸入のうち、約4分の1が中国からの輸入品だ。
一方、日本も中国との貿易に大きく依存しているが、その依存は相互的だ。
つまり、日中貿易の規模が相互に極めて大きいため、紛争によってモノの交換が混乱すれば、日本と同様に中国も打撃を受ける。
これとは対照的に、中国はベトナムとの貿易を遮断しても、自国経済に大きな打撃を受けることがない。
ベトナムは最近、中国からの領土的な挑戦に反撃できるように軍事力の増強に着手した。
それでもなお、中国との間で海上での戦闘になれば、絶望的に不利である公算が大きい。
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