2014年3月24日月曜日

モディ氏が勝てばインドは中国に似てくる?:アクセルしかない国へ進むのか?

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2014.03.24(月)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40256

モディ氏が勝てばインドは中国に似てくる?
(2014年3月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 物事を成し遂げる中国の能力は長年、多くのインド人を驚嘆させてきた。
 中国政府の計画立案者たちが、人類史上最大の農村部から都市部への人の移動を監督していることであれ、世界最長の高速鉄道網を「乗車券を拝見します」と言うより早く建設していることであれ、彼らがやることにはすべて目的意識がある。
 インド――民主的で連邦制で混沌としている国――は、そのような遂行速度で何かをうまくやり通したことは1度もない。


●多くのインド人は、インドはゆっくり歩んでいるかもしれないが、正しい方向に向かって歩んでいて、いずれは自分たちの美徳が勝つと期待してきた〔AFPBB News〕

 インド人は何年もの間、最後には自分たちの美徳が勝利を収めると期待してきた。
 彼らいわく、インドはゆっくりと歩んでいるかもしれないが、正しい方向に向かってゆっくり歩んでいる。

 有権者や独立した裁判所、自由な報道機関という制約なしに動いている中国の独裁主義体制は、どのような方向にも猛進することができる。

 中国は、毎年のように10%の成長を達成する力を持っている(もっとも最近ではその奇跡ですら行き詰まっている)。
 その一方で、文化革命という惨事を生み出すこともできるし、この先も経済的な大事故――例えば、不動産部門の爆発や影の銀行の内部崩壊など――を起こすかもしれない。
 中国にはアクセルしかないのだ。

■中国の特徴を備えた次期インド首相候補

 だが、インド人がもっと中国のようになることを投票で決めたらどうなるだろうか?
 これは、インドの有権者がグジャラート州政府の首相で中国の特徴を備えた次期インド首相候補、ナレンドラ・モディ氏支持に決定的に振れているように見える流れの1つの妥当な解釈だ。

 少なくとも、そのリーダーシップスタイルがほとんど反対を許さないモディ氏は、物事を成し遂げることにかけて定評がある。
 大半のインド財界首脳をはじめ、モディ氏に敬意を表すためグジャラートに押しかけたモディ氏の支持者たちは、同氏の確固たる態度やお役所仕事に対する嫌悪感を称賛している。

 西ベンガルで超小型車「ナノ」を生産する計画が地元の政治と衝突したラタン・タタ氏は2008年、工場をグジャラートに移転するという提案を持ってモディ氏のところにやって来た。
 モディ氏は首を縦に振った――そして、それが実現した。
 モディノミクスは、言い逃れに対する実行の勝利だ。

 中国式リーダーシップとの類似点は誇張されるべきではない。
 だが、少なくとも、モディ氏の政権が中国式アプローチと似ているかもしれない点がもう1つある。
 「一部の人をまず豊かにせよ」という実利的な願望をもって共産党のイデオロギーから逸脱した鄧小平と同様に、
 モディ氏が目指しているのは、経済のパイを公平に切り分けるよりも、
 パイ自体をより大きくすることなのだ。

 2期目の任期5年間でインドの成長率が5%足らずに落ち込むのをなすすべもなく見てきたマンモハン・シン首相の国民会議派政権を批判する人たちは、シン政権は拡大より再配分を優先してきたと言う。
 補助金や社会保障制度に対する浪費によって、中央銀行が金融政策を引き締めざるを得なくなり、その結果成長が抑えられた、とシン首相を中傷する人たちは非難する。

 国民会議派にとって悲しいことに、同党の再配分政策は、その政策から恩恵を受けているはずの人たちからも失敗したと見られている。

■貧困層も国民会議派にそっぽ

 インド全土で約2500人を対象に行われたピュー・リサーチ・センターの最近の調査では、豊かなインド人も貧しいインド人も、教育のあるなしや都市部か農村部かに関係なく、
 モディ氏が属するヒンズー至上主義のインド人民党(BJP)への政権交代を圧倒的多数で望んでいることが判明した。

 10人中7人は、物事が進められるやり方に不満を持っており、63%は国民会議派の政権よりもBJP政権への支持を表明している。
★.実に78%の人はモディ氏に対して好意的な見方をしており、
 不支持を表明しているのはわずか16%だ。

 人々はモディ氏に何を期待しているのだろうか? 
 貧しい人を助けるうえでどちらの党がいい仕事をするかと聞かれると、54%の人はBJPを信頼していると答え、国民会議派を選んだのはわずか21%だった。

 人口のほぼ3分の2を対象とする食料保証制度や1世帯当たり100日間の補助金付き雇用を保証する農村部の地方雇用保証制度に国民会議派が資金を出してきたことを考えると、これは驚きだ。

 同様に、貧しい人たちにとってもう1つの重大な関心事である物価上昇については、どちらの党がインフレを抑えるのがうまいかと聞かれて、55%の人はモディ氏のBJPを支持し、国民会議派を支持したのは17%だった。

 「ライセンス・ラージ」の煩雑な制約を廃止した1991年の改革によってより急速な成長が解き放たれて以来、何億人というインド人の暮らし向きが上向いた。
 だが、さらに何億人というインド人が取り残された。

 ただし、重要な点は、
 この20年間で貧困が「取り除ける状態」であることが明らかになった
ことだ、とコロンビア大学の著名なインド人経済学者、ジャグディシュ・バグワティ教授は言う。
 インド人は、バグワティ教授が「認識される可能性の革命」と呼ぶものを経験してきたのだ。

 この理論によれば、
 インド人はますます、ネルー式の平等の約束ではなく、
 むしろ鄧小平式の成長の見通しに引きつけられている
のかもしれない。
 モディ氏の魅力の一部は、意志の力だけでインドの民主主義のチェック・アンド・バランスを多少覆し、成長志向の中国の賢明さをある程度取り入れられるかもしれないことだ。

 モディ政権の下で期待されているのは、土地が切り開かれ、許認可が与えられ、道路その他のインフラが建設されることだ。
 この前向きなシナリオ――モディ氏を批判する多くの人たちによれば、あまりにも楽天的すぎる筋書き――では、モディ氏がグジャラート州で達成できたものをそっくりそのままインドのために行うという。

■インドと中国の決定的な違い

 もちろん、インドは決して本当の意味では中国のようにならない。
 モディ氏は、群衆を奮起させることのできる炎のような雄弁家だ。
 これは少なくとも毛沢東以来、選挙で選ばれていない中国の指導者に求められることがほとんどなかった資質だ。

 扱いにくく、重要な権限が州に委譲されているインドは、権限が中央に集中している独裁主義的な中国をまねることも決してできない。
 しかも5月の総選挙の後、モディ氏に首相の栄冠が与えられ、その後、歴代の前任者よりも決然と権力を振るったとしても、常に中国との決定的な違いが1つ存在する。

 インド人がモディ氏を気に入らないと判断すれば、彼らはモディ氏をいつでも追い出すことができるのだ。

By David Pilling
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2014.04.07(月)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40376

インド総選挙:ナレンドラ・モディ氏を止められるか?
(英エコノミスト誌 2014年4月5日号)

 ナレンドラ・モディ氏は恐らく、次のインド首相になるだろう。
 だが、だからと言って、そうなるべきだというわけではない。

 インドの総選挙の様子には、誰もが驚くほかはない。
 4月7日から始まる総選挙では、
 読み書きのできない村人や極貧のスラム住人も、ムンバイに住む億万長者も、等しく同じ権利を行使し、政府を選ぶことになる。
 有権者は8億1500万人近くに上り、選挙は9回に分けて5週間にわたって実施される。
 史上最大の民主主義的集団行動だ。

 だが同時に、インドの政治家の無力さと腐敗には、誰もが嘆かずにはいられない。
 インドには問題が山積しているというのに、国民会議派主導の連立政権下にあった10年の間、この国は舵取り役不在のまま放置されてきた。
 経済成長率は半分になり、約5%にまで落ち込んでいる。
 毎年、何百万人の若者を労働市場に迎え入れるだけの雇用を生み出すには、あまりにも低すぎる数字だ。

 改革は実行されず、道路や電気は行き渡らず、子供は教育を受けないままだ。
 その一方で、政治家や役人は、国民会議派政権下で、総額40億~120億ドルの賄賂を受け取ったとされる。
 その結果、インド国民は「政治家の仕事は賄賂を受け取ることだ」と考えるようになっている。

 インド次期首相の圧倒的本命が、インド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ氏であるのも当然と言える。
 ディ氏は、対抗馬となる国民会議派のラフル・ガンジー氏とは正反対の存在だ。

 インドの初代首相ジャワハルラル・ネルーのひ孫にあたるガンジー氏が首相に選ばれたなら、神に与えられた権利であるかのようにその座に就くだろう。
 一方のモディ氏は、かつてはお茶の屋台で働いていた、純然たる才能でのしあがった人物だ。

 ガンジー氏は自分の考えが定まっていないように見える
――自分が権力を望んでいるかどうかさえ、分かっていないかもしれない。
 モディ氏のグジャラート州首相としての実績は、同氏が経済発展に力を注ぎ、それを実現できることを証明している。
 ガンジー氏の連立政権は、腐敗にまみれている。
 対するモディ氏はクリーンだ。

 従って、称賛すべき点は多くある。
 にもかかわらず、本誌(英エコノミスト)には、次期インド首相としてモディ氏を支持することはできない。

■モディ氏の汚点

 その第1の理由は、2002年にグジャラート州で起きたイスラム教徒に対するヒンドゥー教徒による暴行事件だ。
 アーメダバードと周辺の町や村で、すさまじい殺人とレイプがあり、1000人以上が殺害された。
 この暴行は、イスラム過激派と見られるグループにより列車が放火され、ヒンドゥー教徒59人が死亡した事件に対する報復だった。

 モディ氏は1990年に、アヨディヤにある聖地でのデモ行進の組織化に手を貸し、それが2年後に、死者2000人を出したイスラム教徒とヒンドゥー教徒の衝突につながった。

 モディ氏は若い頃からヒンドゥー至上主義を掲げる民族義勇団のメンバーで、その信念に従って生涯独身を誓っており、政治家としてのキャリアの初期には、イスラム教徒に対するヒンドゥー教徒の憎悪を臆面もなく煽る演説をしていた。
 グジャラート州首相を務めていた2002年の暴動時には、虐殺行為を黙認したと非難され、扇動したとさえ言われた。

 モディ氏を擁護する者も多い。特に財界エリートに多いが、そうした擁護者たちは、2つの点を指摘する。第1に、独立性の高い最高裁によるものを含むたび重なる調査で、モディ氏に暴動の責任を問うべき点が何も見つからなかったこと。そして第2に、モディ氏が変わったということだ。

 モディ氏は休むことなく仕事に取り組み、投資を引きつけ、ビジネスを活気づけ、ヒンドゥー教徒にもイスラム教徒にも等しく恩恵を施してきた。
 好調な経済が、インド全土の貧しいイスラム教徒にどれだけ大きな利益をもたらすかを考えてみるといい、というのが擁護者たちの言い分だ。

 どちらの主張も、あまりにも寛大すぎる。
 暴動の調査で結論が出なかったのは、1つには多くの証拠が失われたか、意図的に消されていたからだ。
 そして、2002年の暴動における事実が曖昧であるように、事件に対する現在のモディ氏の見解もはっきりとしない。
 当時起きたことを説明して謝罪すれば、モディ氏は暴行事件から決別することができるはずだ。
 にもかかわらず、モディ氏は事件に関する疑問に答えるのを拒んでいる。

 昨年、事件に触れた数少ないコメントとして、車に轢かれた子犬を悼むのと同じように、イスラム教徒の受けた苦しみを遺憾に思っていると述べた。
 騒動が巻き起こると、モディ氏は
 「ヒンドゥー教徒はあらゆる命を大切にしているという意味だった」と
釈明した。

 イスラム教徒は――そして狂信的なヒンドゥー教徒も――それとは別のメッセージを読み取った。
 BJPの他の指導者たちと異なり、モディ氏はイスラム帽をかぶるのを拒んでいる。
 また、2013年にウッタルプラデシュ州で暴動が起きた際も(犠牲者の大半はイスラム教徒だった)、暴動を非難しようとしなかった。

■2つの悪のうち、どちらがましか

 特定の層だけが分かる差別的メッセージを発する「犬笛」政治は、どんな国でも嘆かわしいものだ。
 だがインドでは、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間の暴力は、ほとんど誰の目にも見て取れる。
 英国領インドがインドとパキスタンに分離した際には、1200万もの人が住み慣れた土地を追われ、数十万人が死亡した。

 2002年以降、宗教対立による暴動は収まっているが、毎年数百件の事件が発生し、多くの死者が出ている。
 時には、ウッタルプラデシュ州で起きた暴動のように、暴力が危険なほどの規模に膨らむこともある。

 国外から火の粉が飛んでくるケースもある。
 2008年には、パキスタンのイスラム過激派によるおそろしいテロがムンバイで起きた――核兵器を保有する隣国のパキスタンは、インドにとって苛立たしい悩みの種だ。

 モディ氏はイスラム教徒の不安を解消するのを拒み、それにより彼らの不安を煽っている。
 反イスラムの票に固執し、それにより反イスラム派を助長している。
 インドの精髄は、様々な人種と宗教、聖人と反逆児が、やかましいほど賑やかに混ざり合っていることにある。
 コラムニストの故クシュワント・シン氏のような賢明な人々は、異なる宗教間の憎悪から生じるダメージを痛切に感じ取っている。

 モディ氏はインド政府で好調なスタートを切れるかもしれないが、遅かれ早かれ、宗教対立の絡む虐殺やパキスタンとの危機に対処しなければならない時が来る。
 その時に、モディ氏がどのような行動を取るのか、そして、モディ氏のような対立を煽る者にイスラム教徒がどう反応するのか、それは誰にも分からない。
 とりわけ、モディ氏を持ち上げ、インドの現代化を主張する者たちには、分かっていない。

 モディ氏がグジャラート州の事件で果たした役割を説明し、心から悔恨の念を示していれば、本誌も支持を考えただろう。
 だが、モディ氏はこれまで、一度もそうした姿勢を見せていない。
 対立を糧に台頭した者は、インドのような分裂しやすい国の首相にはふさわしくない。

 ガンジー氏率いる国民会議派中心の政権という展望は、確かに胸躍るものではない。
 だが本誌は、どちらかと言えば不安の小さい選択肢として、そちらをインド国民に推薦せざるを得ない。

 国民会議派が勝った場合は――その可能性は低いが――党の再生とインドの改革に努めなければならない。
 ガンジー氏は自らの自信のなさを潔く認め、政権運営から一歩退き、現代化推進派を前面に押し出すべきだろう。
 そのための人材は数多くいるし、インドの有権者の間にも現代化を求める声は高まっている。

 BJPが勝った場合は――こちらの方が可能性は高い――連立相手はモディ氏以外の首相を要求すべきだ。

 だが、それでもモディ氏が選ばれたらどうか?
 そうなれば、本誌はモディ氏の幸運を祈る。
 モディ氏が現代的で誠実かつ公平な形でインドを統治し、本誌の見込み違いを証明してくれるのなら、それは喜ばしいことだ。

 しかし、差し当たりは、これまでの実績でモディ氏を判断すべきだ。
 それを見る限り、モディ氏はまだ宗教間の憎悪と縁が切れていない。
 そこには現代化も誠実さも公平さも見られない。
 インドにはもっと良い首相がふさわしい。

© 2014 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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【資料】

2013.12.20(金)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39495

モディ氏はインドを救うのか、それとも破壊するのか?
(英エコノミスト誌 2013年12月14日号)

 インドのイスラム教徒には、ナレンドラ・モディ氏を恐れる理由がある。
 モディ氏は彼らに手を差し伸べるべきだ。 

 5年前でさえ、想像も及ばなかったことだが、来年5月に総選挙を控えたインドでは今、ナレンドラ・モディ氏が次期首相の最有力候補になっている。

 長年グジャラート州首相を務めてきたモディ氏には常に、経済効率と強硬なヒンドゥーナショナリズムが入り混じる同氏の考えを熱心に支持する中核基盤が存在した。
 また、モディ氏が次々と物事を成し遂げることから、次第に多くの有権者が同氏のことを、低迷するインド経済の救世主と見なすようになっている。

 だが、インドの政界には、モディ氏ほど意見を二分する人物はいない。

 グジャラート州で2002年に発生したすさまじい暴力で1000人以上の死者――その大半がイスラム教徒――が出て以来、モディ氏の評判にはひどい汚点が付いて回る。
 モディ氏の資質には、これほど大きな汚点を上回るほどの価値があるのだろうか? 

■インドを席巻するモディ熱

 モディ氏がインドの次期指導者に見えるのだとすれば、それは与党の現状を表している。
 国民会議派は2004年から政権の座にあり、とうの昔に活力を失っている。
 かつて輝きを放ったインドの経済成長率は半減し、5%まで落ち込んだ。
 毎年労働人口に加わってくる1000万人のインド国民に新たな仕事を見つける必要があるため、そうした鈍い成長はひどい人的損失を生んでいる。

 国民会議派の漂流と打算がこれほど危険に見えるのは、そうした背景があるためだ。
 かつて改革論者だった81歳のマンモハン・シン首相は、ガンジー家の家臣として残る任期を全うしようとしている。
 ラフル・ガンジー氏は結局、国民会議派の次期首相候補になるかもしれないが、当の小君主はその職を望んでいるようにも、その任に堪えるようにも見えない。

 12月半ばに州選挙結果が発表された5州のうち4州で、国民会議派は当然の惨敗を帰した。
 心強い1つの兆候は、デリーでの汚職撲滅運動の台頭だった。
 だが、変化を求めるこの熱意の最大の受益者はモディ氏だ。
 同氏は中道右派のヒンドゥー系政党・インド人民党(BJP)の首相候補であるだけでなく、インドの政党としては珍しいほど、BJPの選挙運動の顔になっている。

 モディ氏の知名度は、ラジャスタン州、マディヤプラデシュ州、チャッティスガル州、そしてデリー首都圏(州に相当)の選挙でのBJPの躍進を説明する役に立つ。

 素晴らしい雄弁家で現在63歳のモディ氏は、インド全土で多くの群集を引き寄せる。
 インドでは通常、政治家が市民にカネを払って選挙集会に参加してもらっているのに対し、モディ氏は入場料を取る。
 これは、同氏が巻き起こす熱狂のしるしであると同時に、支持者に、自身たちが強力なムーブメントの一端を担っていると感じさせる方法でもある。



ニューズウイーク 2014年4月18日(金)12時12分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2014/04/post-3248.php
[2014年4月 1日号掲載]

インドと日本を結ぶ意外な友情
次期首相と目されるモディと安倍の長年の関係と中国への警戒感が両国の絆をさらに固いものにするだろう


●心の友 モディは安倍が2度目の首相就任を果たした際に真っ先に祝福の意を伝えた1人 Amit Dave-Reuters

 もしも日本の首相にインド総選挙で一票を投じる権利があったら、安倍晋三は間違いなくナレンドラ・モディを首相候補とする野党・インド人民党(BJP)に投票するだろう。

 安倍とモディはいずれも民族主義者でタカ派の保守主義者であり、多くの問題について見解を共有する長年の友人でもある。
 今後何年間にもわたって、大いに助け合うことができる可能性のある間柄だ。

 外交専門誌フォーリン・ポリシー(オンライン版)によれば、12年末に安倍の首相再登板が決まった際、最初に祝福の意を伝えた海外要人の1人が、一介の州首相にすぎないモディだった。
 同誌のシュレー・バルマは、日本の首相とグジャラート州の首相が電話で話すのは
 「厳密な外交儀礼に照らせばおかしい」が、
 「長い年月の中で2人の個人的関係、日本と同州の経済的パートナーシップが育まれてきたこと」
を強調する出来事だったとしている。

 バルマによれば、きっかけは02年にグジャラート州で起こった暴動だった。
 約1200人の死者を出した一連の騒動を事実上黙認したとして、モディに非難が集中。
 アメリカと一部の欧州諸国はモディに背を向けた。

 そのため、グジャラート州政府は貿易の機会を求めて「東方」、特に日本に目を向けることになった。
 モディ自らも07年に日本を訪問し(インドの州首相による公式訪問は初めてのことだった)、これがきっかけで同州と日本政府の間に新たな投資ルートが開かれた。

 これ以降、グジャラート州のインフラや自動車工場の建設プロジェクトなどに日本から多額の資金が流れ込んだ。
 12年には政財界の大規模な代表団が同州を訪れ、将来的な企業進出や投資について協議を行っている。
 日本からグジャラート州への民間投資は、15年度末までに20億ドルに達する見通しだ。


■「絆」の背景に中国の影

 日本は外交面でも貿易面でも一貫して、モディを単なる州首相ではなく閣僚並み、さらには国家元首並みに遇してきたわけだ。
 4〜5月に予定されている総選挙でBJPが現与党の国民会議派を破り、モディがインド首相に「昇格」すれば、両国の絆はさらに強いものになると予想される。

 安倍はモディだけでなく、退任するマンモハン・シン現首相とも友好関係を維持してきた。
 2期10年に及んだシン政権の下、インドと日本はより緊密な戦略的連携を築いてきた。
 この背景には、アジアにおける両国の最大のライバルである中国が、経済的にも軍事的にも力を増してきた事実がある。

 ここ数年は、両国の要人が互いの国を訪問している。
 安倍は野党時代の11年にもニューデリーを訪れてシンと会談を行っている。
 昨年は日本の天皇皇后両陛下が53年ぶりとなるインドへの歴史的訪問を果たした。

 1月に首都ニューデリーで開かれたインド共和国記念日の祝賀式典にも、安倍は主賓として招かれ出席している。
 モディの次期首相就任が濃厚になるなか、安倍は今後インドをさらに優遇する可能性が高い。

 インドもその厚遇に応えるだろう。
 日中関係が領土・領海や北朝鮮などの問題をめぐって悪化の一途をたどるなか、「モディ首相」率いるインドは中国政府をさらにいら立たせる行動を取る可能性が大いにある。
 インドは今年、マラバル沖で実施する米印海軍合同演習に日本の自衛隊を招待している。
 また日本から軍用機を調達する意向とも伝えられる。

 インドも中国との間に領土紛争を抱えているが、モディは中国を拒絶しているわけではない。
 実際、彼は11年に中国を訪れ、国家元首並みの歓待を受けている。
 当時モディは中国に対し、グジャラート州への投資を呼び掛けた。
 ちょうど日本に投資を求めたのと同じように。

 だが投資誘致のアピールを行う一方で、モディは中国の拡張主義的な政策には明確な反対を表明している。
 英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、モディは最近、北東部アルナチャルプラデシュ州で行った選挙演説で、中国に対して「拡張主義的な態度」を慎むべきだと警告している(中国は隣接する同州を自国の領土と主張し、「南チベット」と呼んでいる)。

■第3のパートナーも必要

 国際戦略研究所(IISS)の地政学的経済学・戦略部門ディレクターで、ニューデリーの政策研究センターの名誉研究員でもあるサンジャヤ・バルーは、インディアン・エクスプレス紙への寄稿で、もしもモディが首相に選出されれば「国民の士気を高めるため」に安倍同様の民族主義的な外交政策を取るだろうと書いている。

 「国内経済への投資と海外での戦略的インフラ投資を組み合わせる安倍のやり方を、モディは高く評価している」
と、バルーは指摘している。
 「彼は瀕死のインド経済の活性化に重点を置いている。
 不景気が続く日本で安倍が権力の座に就いたやり方とまさに同じだ」

 安倍とインド次期首相と目されるモディの両者に必要なのは、今後、中国に対抗していくためのアジアにおける「第3のパートナー」かもしれない。
 インドの著名な政治アナリストであるジャスワント・シンは、インドと日本、韓国の3国が安全保障面で協力して、中国に対抗する3本柱を構成することを提案している。

 インドの財務相、外相、国防相を歴任したシンは、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領と日本の安倍首相がいずれも、中国が「昨年11月に韓国の防空識別圏と約3000平方キロ重なる日本海上空に新たな防空識別圏を一方的に宣言したこと」に危機感を募らせていると指摘。
 これを受けて日韓両国は、中国南方においてインドと連携し、防衛・安全保障を強化する(原子力エネルギーに関する協力も含む)動きに出たと論じている。

 日本の小野寺五典防衛相は1月、インドを訪問し、4日間にわたり防衛当局者と協議を行った。
 「日本とインドの戦略的およびグローバルなパートナーシップを強化する」ための2国間安保協定の詳細を詰めることが目的だった。
 これには海賊対策や海洋安保、テロ対策などで協力を深化させる合同演習や軍事交流も含まれる。

 ウッドロー・ウィルソン国際研究センター(ワシントン)の上級研究員マイケル・クーゲルマンは、印日関係はアジアにおける最も良好なパートナーシップの1つだとしている。
 「両国はアジアにおける中国の影響力増大に懸念を募らせるなか、この数年で特に親密さを増した」
と彼は言う。
 「中国に関する懸念が、おそらく緊密さの一番の理由だろう」

■景気浮揚も日本が救済?

 モディはインドの景気対策に重点を置かなければならないが、ここでも日本が救いの手を差し伸べられる可能性がある。

 アジア最大の民主主義国家であるインドと日本の2国間貿易は拡大の機が熟している。
★.11〜12年の2国間貿易の額はわずか184億ドルだった。
★.対して印中貿易(13年)は655億ドル、
★. 日中貿易は3119億ドルにも上る。
 また
★.中国に拠点を置く日本企業は2万社以上に達する一方、
 インドに進出している企業は1000社余りにすぎない。

 だからこそ印日貿易には大きな潜在力がある。
 クーゲルマンによれば、両国関係の改善は「強い経済的側面」に支えられており、「来るべきモディ政権もそこに期待している」。

 だがモディが選挙で勝利したとしても、彼は12年に圧勝で再選された安倍よりも大きな難題に直面する可能性が高い。

 安倍率いる自由民主党は現在、衆参両院で過半数を占めているが、モディ率いるBJPは、選挙で第1党になっても議会で過半数を獲得できる可能性は薄い。
 そのため連立政権を組まざるを得ず、モディが自由に政策を実行できる余地は狭まるかもしれない。

 それでもロイター通信のコラムニストであるアンディ・ムカジーのみるところ、モディは安倍からの支援に期待してもよさそうだ。

「日本の企業や銀行は投資先を探しているが、高齢化の進んだ日本社会にはその受け皿がない」
と、ムカジーは言う。
 「ならばインドに投資すればいい。
 インドの人口構成は若いし、何よりもインフラ投資を必要としているのだから」