●たまたまスケープゴートに使われた運の悪い地方都市事件
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「WEDGE Infinity」 2014年03月17日(Mon)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3683
98%の議員が辞職
中国地方都市で空前の贈収賄事件
深刻な状況に習近平も大激怒
驚くべき贈収賄事件が中国内陸の湖南省衡陽市で発覚した。
市議会議員選挙にあたる衡陽市の人民代表大会の代表選出に際して贈収賄に関わった議員が98%にも上ったというのである。
中国における汚職事件そのものはそれほど驚くべきことではない。
その深刻な状況に対して執政党である共産党自身も危機感を深め、習近平政権が成立してから綱紀粛正を図るべく倹約令とでもいうべき「八項目規定」や様々な決まりを策定公布して対処してきた。
(「贅沢禁止令効果なし 違反者は2万人 中国メディアがこぞって警鐘」も参照)
ところがそうした矢先に発覚した衡陽市の贈収賄事件の深刻さはこれまでの贈収賄の規模をはるかに超えるものだったために中国で全国的に注目を浴びた。
529人の市の代議員のうち518人が贈収賄に関わったとして辞職を余儀なくされたのだ。
会議では習近平国家主席が激怒して何度も声を荒げたとされるほどだ。
■汚職の根源にある肥大化した官僚機構
さて今回の贈収賄事件を考える前に、事件の起きた衡陽市について少し説明しておく必要があるだろう。
地方都市ということでそれが田舎だから影響はさほどない、というわけにはいかない。
衡陽市は人口規模からいうと湖南市の省都である長沙市よりも人口が多く、湖南省の14の市(地区級市と呼ばれる省より1級下級の行政単位)レベル行政単位のうちトップで700万を超える人口を有する(2010年の人口調査では714万人)。
愛知県程の人口を持つ行政単位に500人以上の代議員を抱えるということも驚きであり(因みに愛知県県議会議員の定数は103人)、地方自治体では代議員だけでなく、行政府の官僚も抱えることから中国においていかに官僚制が肥大化しているのかその規模からも分かる。
中国政治における汚職の根源には肥大化した官僚機構があり、
それは中央だけではなくむしろ地方においてより深刻であることが窺えよう。
そしてもう一つのポイントは単に衡陽市の議会選挙の贈収賄というだけでなく、ここから選出されてより上級である省の人民代表大会に参加する省の代議員56人にも贈収賄容疑がかけられ、辞任をしたという点だ。
つまり市から省そして最終的には国の議会(全国人民代表大会)への代表選出という一連の政治制度、プロセスにおける「民主的」(中国型の)手続きを形骸化させ、その本質に疑問を生じさせるような事件だったのである。
「両会」(全人代と全国協商会議の二つの大きな会議)開催を前に事件が発覚したのはその開催への代表選出プロセスにおいてだったのだ。
そこで今回この衡陽市での発生した贈賄事件を特集として克明にレポートした『財経』誌による記事「衡陽選挙の″ブラックマネー″:百万元賄賂でも落選」を紹介しよう。
【2014年2月24日 財経網(抄訳)】
汚職額1億1000万元(約16億円:筆者)、56人の省代表(日本だと県議会議員に相当:筆者)、518人の人民代表大会代表(市議会議員に相当:筆者)、68人の職員が関与した衡陽市の選挙汚職は1949年以降、最大規模で金額も最多の選挙汚職事件である。
中国共産党のトップ習近平総書記(習近平は国家主席、共産党総書記、中央軍事委員会主席の3つのポストを兼任するが、党会議では総書記の肩書で参加:筆者)は、党規律検査委員会の会議(第18期第3回会議)においてこの事件について時間を割いて語り、党の建設と国のガバナンスについて憂いたという。
湖南省党委員会の徐守盛書記(共産党が政権を掌握する中国では各自治体のトップは省長ではなく、党委員会書記:筆者)は「賄賂によって選挙を台無しにするのは社会民主政治への挑戦であり、国の法律への挑戦であり、党規律への挑戦であり、レッドラインを越え、電気の通じた高圧線に触れた」と指摘し、人々が検証する鉄のケースとしなければならない、と主張した。
「両会」の開催時期に影響
2014年の湖南省で開かれる「両会」(人民代表大会と政治協商会議の二つの会議を合わせた略称;中央だけでなく地方でも同様に二つの会議が同時期に開かれる:筆者)はいつもよりも開催が延期され、2月9日になってやっと湖南省の省都、長沙市で開催されることになり、省内各市や州から代議員たちが会議会場である4つのホテルに集まった。
いつもなら会議後に旧暦の正月を迎えるはずだが、今年は初めて新年が明けてから開催された。
湖南省の全人代の部内者によると、会議の遅延は衡陽の選挙汚職の解決がされなければならなかったからだったという。
これより2カ月前の2013年12月27日、28日に湖南省の人民代表大会常務委員会は全体会議を開き、衡陽市の会議期間中に贈収賄によって当選した56人の省代議員の当選を無効と発表した。
28日には衡陽市傘下の県(市・区)の人民代表大会常務委員会もそれぞれ会議を開き、512人の衡陽市代議員を辞職させることを決定した。
衡陽市党委員会の童名謙書記(彼は同時に湖南省の政治協商会議副主席〔県議会副議長のような地位:筆者〕に昇任したばかりだった)は監督責任を問われ、党中央規律委員会による捜査対象として立件された。
嫌疑を受けている衡陽市の代議員は大別すると
★.民間企業家、
★.市の幹部、
★.国有企業
の高官という3種類に分けられ、後者2つの贈賄費用の出所は自分の所属組織であった。
この事件は指導者たちの激怒を引き起こした。
習近平総書記は規律検査委員会の会議でこの事件を取り上げ、「衡陽の共産党員はどこに行ったのか」と声を荒げ、6回も「どこに行ったのだ?」と繰り返したという。
衡陽の人民代表大会(議会)は事件後、まず500人以上の市の代議員に辞職を勧告した。
12月28日に湖南省の人民代表大会は選挙のインチキを公表し、贈収賄に関わった代議員に辞職を勧告する方式をとった。
その後、補欠選挙が行われた。
代議員の任期は5年で衡陽を代表して省の人代に参加する76人の代議員のうち56人が贈収賄容疑で辞任したため空席を補欠選挙で選ばなければならなくなった。
しかし省への代表を選ぶ衡陽市の人民代表大会でも512人が辞任したためまずここの補欠選挙を行って市の代表を選ぶ必要があった。
1月14日から17日にかけて衡陽市傘下の各区や県で人民代表大会が開かれ、市の人民代表大会に参加する代議員が選ばれた。
そしてこの代表によって省への代議員が選ばれたのである。
こうした理由で湖南省の「両会」が旧正月の新年明け後に開催が延ばされたのである。
こうして選ばれた省の代議員名簿を見ると、村の党支部書記、中学の教師、道路修復ステーションの責任者、病院の主任医師、清掃職員、銀行受付従業員など基層の代表の比率が高くなった。
落選した候補者たちからのタレこみから…
衡陽での贈収賄事件の発覚は、落選した候補者たちからのタレこみによるものだった。
一番初めに「撃ち落とされた」のは衡陽市にある鑫盛置業有限公司の左建国董事長だった。
2013年2月に中央テレビの記者がタレこみされた彼の贈収賄に関する資料をブログ(微博)に掲載したのである。
彼は総額70万元(約1200万円)を費やして同市の代議員に当選した。
政府報道では、この度の衡陽市での汚職額は1億1000万元(約17億円:筆者)に上り、518人の衡陽市の代議員と68人の職員が贈収賄に関わった。
贈賄は1件につき5000元~7000元(約8万~11万円)程度で市の代議員は平均20万元(300万円超)、人代職員は平均14,15万元受け取った。
会議で明らかにされたのは捜査対象の関係者は数百人に上り、当初は反発も激しかったが、のちに過ちを認識するに至り、辛抱強く聞き取りを行ったという。
徐守盛書記は、事件捜査は続いており、我々社会、政治と法律の三つを統合させなければならないと主張した。
今回の事件が暴露した問題に対して衡陽の同志たちは教訓を今後の仕事の糧にして身を粉にすべきだと述べた。
【解説】
湖南省衡陽市の選挙違反事件は、一地方の市代議員の贈賄事件に過ぎないが、中国の人民代表大会制度を揺るがす程の出来事だった。
程度と規模に止まらず、その代議員選出のプロセスが贈収賄を引き起こす汚職の温床であることを露呈した。
このニュースは習近平主席を激怒させ、会議でわざわざ時間を割いて問題が指摘され、7時のニュースでも取り上げられて問題の深刻さが指摘された。
また、開催中の両会でも傅莹報道官が記者会見で
「深刻な事件であり、影響も劣悪であり、人民代表大会制度が作られてから最も深刻な選挙を台無しにした事件だ」
と述べた。
しかし、口で言うほど衡陽市の選挙違反が中国全体の人民代表大会の選挙制度の問題として深刻に受け取られ、教訓が汲み取られ、対処がなされているとは言い難い。
日本のように連日報道されるほどの騒ぎにはなっていないし、
辞職した者たちが刑事告訴された形跡もない。
むしろ、政治的な激震を回避すべく穏便にすまされるのではないかという感さえもする。
人民代表大会制度の改革から着手されるべき
そもそも中国国民が衡陽市の選挙違反を耳にしたところでその汚職の程度や規模が驚くべきものだと思う国民は少なかっただろう。
多くの人が考えたであろうことは、
そんなことはどこでも行われており、
衡陽のケースは氷山のごく一角でしかないのかもしれない。
中央はもちろん、湖南でさえも
衡陽のケースが例外的で、大部分の場所、代議員は清廉潔白で人民代表大会制度は正常に機能しているというフィクション維持に腐心
している。
そのゆえ衡陽市でのケースが糾弾されてその責任が問われたものの、同じようなケースが全国や湖南省でなかったかどうかを徹底的に調査することにはなっておらず、その必要性が認識される様子もない。
共産党の執政、政権安定に固執するがゆえに汚職が人民代表大会制度という制度の構造にまで及んでいたことを認められないのだ。
何かと話題を振りまくものいう評論家、鄧聿文(トウ・イツブン)氏は、最近発表した論評の中で中国のガバナンス近代化は人民代表大会制度の改革から着手されるべきだ、と論じている。
民衆を代表し、民主的な法治を体現する場として制度設計されたはずの人民代表大会制度が権力と利益を金銭で取引する場と化したことを露呈させた衡陽の選挙汚職は中国政治の構造的矛盾を示した氷山の一角に過ぎないだろう。
弓野正宏(ゆみの・まさひろ) 早稲田大学現代中国研究所招聘研究員
1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。
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「意図的なみせしめ」?
といった風情が強いようだ。
共産党がよくやる手法であって、いつものことのようにおもわれる。
スケープゴートに使われた連中のみがバカをみた、といったところだろう。
大騒ぎするようなことではなく、みんなそこそこうまい汁を吸っているということである。
【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】
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