2014年3月24日月曜日

チャイナパラドックス:シノペックの資金調達が浮き彫りにする期待外れの国有企業改革

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2014.03.24(月)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40235

シノペックの資金調達が浮き彫りにするチャイナパラドックス


●四川省成都にあるシノペックのガソリンスタンド〔AFPBB News〕

 中国石油化工集団(シノペック)は中国の国有工業セクターを象徴している。
 巨大で、無秩序に手を広げており、資金を必要としているのだ。

 シノペックが外部資本を受け入れようとしている今、投資家は関心を向けるべきなのだろうか?

 アジア最大の石油精製会社であるシノペックは、2012年の決算報告で年間売上高が4380億ドルに上り、化学製品、発電所、そして、もちろん石油製品に加え、コンビニエンスストアから不動産、ホテルまで手がける帝国を運営している。

 だが、大半の中国国有企業――1990年に市場が開設されて以来、数百社の国有企業が香港と中国本土への株式上場を通じて数兆ドルの資金を調達してきた
――と同様、シノペックの株式の約4分の3を政府が握っている。

 それゆえ、民営化の中心に中国流のパラドックスが存在する。
 国有企業は経営権を手放すことなく資本を得たいと考えているのだ。
 シノペックなど一握りの国有企業が新たな資金調達に乗り出そうとしている今、この難問に再び厳しい目が向けられている。

■期待外れの国有企業改革

 輸送、エネルギー産業などの国有企業は2年近く前に提案された改革を利用しようとしている。
 国有企業が別会社になっている事業部門の最大30%の少数株式・権益を売却することで、民間資本、外国資本、あるいは「社会」資本――年金基金などを指す中国の呼称――に資金不足を埋めさせるのを認める改革だ。

 この改革は、独占を脅かしかねない戦略的インフラ部門の民間、外国競合会社への開放には到底至らず、民間部門に対する窓がもっと大きく開かれることを期待していた向きを失望させた。

 「単刀直入に言えば、民間資本にチャンスが与えられるのは、ある産業が開発が困難な時期に入った時だけだ」。
 民間コングロマリット(複合企業)、復星(ホスン)の郭広昌会長は今月、全国人民代表大会(全人代)の会期中にこう語った。

 バークレイズのアナリスト、ソムシャンカー・シンハ氏は、民間資本の注入が国営巨大企業を機敏なプレーヤーに変えることもなさそうだとし、
 「少数株式の売却といったことは確かに現金を調達するうえで役立つが、構造改革が行われている証拠は全く見られない」
と言う。

 シノペック――香港に上場している同社株19%の価格に基づくと株式時価総額は950億ドル――は、ドル箱事業であるガソリンスタンド部門の最大30%を売却する計画だ。
 同社は既に、コンビニ「易捷」2万3000店舗を独自部門に分離することで第一歩を踏み出した。

 アナリストの試算では、株式・権益の売却で200億ドル調達できる可能性があるという。
 その資金は恐らくシノペックのファミリー企業内にとどまることになり、
 兄弟会社で上場企業の中国石化集団煉化工程(シノペックエンジニアリング)が多くを建設することになる石炭転換プロジェクトの財源になるか、
 100%国有の親会社に還流されて高額な海外資産につぎ込まれることになるだろう。

 他の中国石油大手2社と異なり、シノペックの国有親会社は上場子会社よりも借入金が多い。
 「シノペックは事実上、優良資産を売却し、売却で得た資金を使って親会社から収益性の低い資産を買い取ることになる」
とシンハ氏は言う。

 政府に義務付けられたコスト高のインフラプロジェクトを背負い込んでいる他の国有企業も、資金を求めている。
 電池式電気自動車のための有効な充電ステーション網をこれから建設しなければならない国家電網は先日、外部の資本を求めると述べた。

 シノペックの最大のライバルで、上場している中国石油天然気(ペトロチャイナ)の親会社である中国石油天然気集団(CNPC)は昨年、中央アジアから中国東部工業地帯に天然ガスを運ぶ長距離パイプラインの費用を賄うために、国内基金との合弁事業を通じて100億ドルを調達した。

 CNPCはプロジェクト全体を複数のセグメントに分割し、各単位の権益を鉄鋼大手の宝鋼集団、中国の全国社会保障基金(NSSF)、民間資金と政府資金の双方が流れる投資基金に売却した。

 「企業はそれぞれ独自の方策を講じることができる」。
 先月、中国南部にある新しい銅製錬所の権益の30%を国際的な金属商社トラフィギュラに売却した金川集団の資本管理担当幹部、ワン・ホンリン氏はこう話す。

■シノペックのガソリンスタンド事業の選択肢

 シノペックは、毎年同社に営業利益の40%前後を貢献している3万532軒のガソリンスタンドについて、いくつかの選択肢を持つ。
 まず、厚樸投資管理(ホプ・インベストメント・マネジメント)のような投資家に株式を売却することができる。
 ホプは中国のプライベートエクイティー会社で、同社会長は最近、石炭・化学品プロジェクトの覚書に調印するために、シノペックに同行してモンゴルを訪問している。

 または、シノペックは投資先を探している中国の多くの地方年金基金の中から、安全なサイレントパートナーを見つけられるかもしれない。
 それより可能性の低い選択肢は、同部門を香港か上海に上場することだ。

 こうした選択肢はいずれも、貴重な資産の経営権を民間の経営陣に明け渡したり、競争を導入したりすることにはつながらない。
 競争導入などは、中国の肥大化した国有企業に規律を持ち込むためのお決まりの処方箋だ。

■少数株式・権益の売却は問題を悪化させる一方

 また、この事実は、シノペックが国際的な石油ブランドの運営経験を持つ外国の石油大手との合弁事業を検討しそうにない理由も説明している。

 「難しいのは、国有企業が本当の意味で経営権を譲ろうとしていないことだ。
 経営権がなかったら、どうやって改革などできるのか?」。
 北京大学教授で会計の専門家のポール・ギリス氏はこう言う。

 これらの肥大化した国有企業の構造が、ギリス氏の言う論点を浮き彫りにしている。
 その入り組んだ企業構造と資産移転のおかげで、国有企業は市場の支配力を強化しながら資金を調達することができたからだ。
 これは一部の改革論者が望んでいた大改革とは似ても似つかない結果だ。
 特定の事業部門の少数株式・権益を売ろうとする直近の取り組みは、この問題をいっそう悪化させるだけだ。

By Lucy Hornby
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