2014年3月26日水曜日

中国化するベトナム:肥満と躾けと教育制度

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JB Press 2014.03.26(水)

アオザイ美人が絶滅する日
 世界一スリムな女性たちの子供がなぜこんなに太っているのか?

前回「1日1万5000人が殺到するベトナムのマクドナルド」で、ベトナムに上陸したマクドナルドが尋常でないレベルで集客しているという話を書いた。

 すると、
 「アオザイを着るベトナム人女性のスタイルを崩すような米国の侵略行為は断固許すべからず」
という、ベトナムを愛する複数の日本の方々からの反応があった。

●アオザイを着たベトナムの女性たち(写真提供:筆者、以下同)

 経済発展とともに、ベトナム人女性が伝統的なアオザイを着る機会は少なくなってきている。

 マクドナルドの進出が侵略かどうかはともかく、女性がアオザイを着る機会がさらに減ることを憂慮している人は多い。
 ただし、アオザイだけをテーマとした記事を書いて(書けなくはないが)、アオザイフェチの変態だと思われても困る。

 そこで今回は、アオザイを切り口の一つとして、昨今のベトナム社会の構造的な問題である子供の教育の問題について書くことにしたい。

■ベトナム人女性がアオザイを着られる理由は、世界一低いベトナムの肥満率

 ベトナム人女性が、タイトなアオザイを着こなすことができるのには実は理由がある。というのも、下図のようにベトナム女性は(男性も)、統計的に世界一細身だからだ。

●肥満比率の比較(抜粋、2009年)(出所:WHO Global Database)

 ここでは、
 BMI([体重]÷[身長の2乗])30以上の人を肥満と定義し、
肥満人口が人口全体に占める肥満比率を計っている。

 ベトナムの肥満比率の低さは男女共通で、女性の0.6%、男性の0.3%は、
 世界91カ国の比較において、男女ともに堂々の第1位。

 日本も世界的にはかなり痩せている国だが、肥満比率は、女性は3.3%(世界4位)、男性が2.9%(世界で10位)。
 ベトナム人と比較すると、日本では女性は5倍、男性は10倍の比率で肥満人口が多いことになる。

 ベトナム人が細身なのは、ひとえに、健康的な食生活のおかげだ。

 米食中心(パンは太りやすいらしい)、野菜中心、野菜も炒めるのではなく煮る、清涼飲料水よりもお茶が好きなど。
 ベトナムの食生活にはダイエットにつながる要素が満載であり、日本のかつての食生活との共通点も非常に多い。

■太りすぎの子供たち

 しかし、ベトナムが、この世界一スリムという称号を今後どれぐらい維持できるかについては、疑問符がつく。

 というのも、昨今のベトナムの子供というのがびっくりするぐらいに肥満だからだ。
 アオザイの似合いそうな華奢なお母さんが、全く不釣り合いな小学生ぐらいの子供を連れているシーンは街中でもよく見かける。

●肥満気味のベトナムの子供たち

 「この女の子たち、大人になったら、果たしてアオザイを着られるのだろうか・・・」
と勝手に心配してしまう(余計なお世話だろうが)。

 子供たちが肥満気味なのは、
 「痩せている子供は、親がろくにご飯も与えていないような印象を与えてしまう」
というポスト・ベトナム戦争世代の親たちのメンタリティが最大の原因だ。

 現代の親たちは、ベトナム戦争、その後のカンボジア・中国との戦争など、つらい時代を経験している。
 彼らは、せめて子供には少しでも贅沢をさせてあげたいという意識が著しく強く、子供が欲しがるものは、なんでも与える傾向にある。

 しかも、ベトナム女性の多くは日本の女性と比べても、かなり社会進出している。
 だいたい、産後すぐに職場に復帰する。
 そのため、おばあちゃんなどの親戚が子供の面倒を見る場合が多い。

 おばあちゃんは孫を元気に育てるために、粉ミルクをガンガン与える(だから、ベトナム粉ミルク市場は大きい)。
 結果的に、丸々と太った子供たちが量産される構造になっている。

■機能しない子供の教育と躾(しつけ)

 太っていること自体を疑問視するつもりはない。
 時代・国による価値観の差もある。しかし、この子供の肥満問題は、実はベトナムの現代社会の構造的な問題を示唆している。

 簡潔に表現すれば、家庭・学校の両方において、子供の教育や躾が全く機能していないという問題だ。

 ベトナム人の子供たちは、残念ながら、本当に躾がなされていない。
 もちろん、きちんと教育され躾けられている子供もいるが、とても少数な印象を受ける。

 もともと、特に温暖な南部を中心に、ベトナムはそれほど社会的規則にうるさい国ではない。
 しかし、公共の場での、子供たちの周りの迷惑を気にしない傍若無人な振る舞いに辟易する外国人も多い(大人もそうだが、子供はもっとひどい)。

 我が家にも3歳と1歳の子供がいて、ベトナムで育てているが、小学校低学年ぐらいのベトナム人の子供たちの行動には正直目を覆いたくなる。
 深夜でも騒ぐ、順番を守らない、他の子供のものを取るなどは日常的。

 ここで問題なのは、こうした子供たちの行為を親が殆ど注意せず、看過しているという状況だ。
 背景は上述の通り、「子供の欲しがるものは、なんでも与えてあげよう」という親たちのメンタリティにある。

 一方、学校教育もかなり悪い。
 ベトナムの教育は、日本と似ていて、暗記教育が中心。
 論理的思考や創造力を育成するようなカリキュラムがないという点では、日本の教育と同じ弱点を持つ。

 「学校教育の問題は、過去20年間、教科書の内容も教員の質も、いわゆる社会主義全盛の時代から全く変化していないことだ」
と多くのベトナム人が口をそろえて指摘する(自分の家庭での甘やかしの問題は横に置くとして)。

 「このご時世に、いまだ、ホーおじさん(ホーチミンの親しみを込めた呼び方)の逸話などを延々と教えている」
とベトナム人の親たちは嘆く。

 これまで100人以上のベトナム人経営者に会ってきたが、まともな経営者で、
 自分の子供を中等教育以降でベトナム国内の学校に通わせているという人は、実は一人も会ったことがない。

 多少でも家計にゆとりのある親は、無理をしてでも、米国など海外の学校に積極的に子供を送り出している。
 ベトナム人自身、誰もベトナム国内の教育を信頼していないのだ(学校教育の問題は根が深い話なので、別稿にてあらためて詳述したい)。

 日本をはじめ、どこの国でも子供の教育は大きなチャレンジだ。
 しかし、ベトナムの教育問題は、初めてこの国を訪問する外国人旅行者でも感じることができるほど、子供の行動・態度に顕在化している。

 勤勉さ・真面目さというベトナム人労働者の強みを失うことがないよう(そして、肥満問題が解消されて、アオザイ美女が未来永劫存在するよう)、大胆な教育改革がこの国には必要とされている。

細野恭平 Kyohei Hosono
(株)ドリームインキュベータ(DI)執行役員、DIベトナム社長
東京大学文学部卒業(スラブ語)、ミシガン大学公共政策大学院修士
1996年、海外経済協力基金(後に国際協力銀行)に入社。
旧ソ連(ウズベキスタン、カザフスタン等)向けの円借款事業や、途上国の債務リストラクチャリング、ODA改革等に従事する。途中、ロシア・サンクトペテルブルクにてロシア語を習得。
2005年、DIに参画し、大企業向けのコンサルティングやベンチャー企業向けの投資に従事。
2010年から、ベトナムに駐在。DIアジア産業ファンド(50億円)を通じたベトナム企業向けの投資、ベトナムに進出する日本企業・ベトナム政府/企業向けのコンサルティングなどを手掛ける。400社以上のベトナム現地企業と接点があり、ベトナムの幅広いセクターに精通している。


2014/03/24 22:13   【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201403/CN2014032401002324.html

栄養学部丸ごと「輸出」 日越の大学、協定締結


● 24日、ベトナムのハノイ医大で、栄養学部の支援に関する協定に署名した後、握手する日本とベトナムの関係者ら(共同)

 【ハノイ共同】ベトナムのハノイ医大と十文字学園女子大(埼玉県新座市)、神奈川県立保健福祉大(横須賀市)などが24日、同医大に昨年新設されたベトナム初の栄養学部の支援に関する協力協定をハノイで締結した。

 日本のカリキュラムを導入し、日本から多くの教員を派遣するなど、学部全体を丸ごと「輸出」するような協力形態で、新たな国際教育交流の姿として注目されそうだ。

 協定にはベトナム側からハノイ医大と国立栄養研究所、日本側は両大学と日本栄養士会が署名した。
 食品大手の味の素も資金や人材面などで支援する。



【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】


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