2014年3月23日日曜日

日本の年金基金:リスクを取り始めた巨大基金:

_

●  GPIFは、ポートフォリオの中で日本国債のウエートを2013年3月の62%から2013年末に55%まで減らし、減らした分のほとんど――約8兆円――を代わりに日本株と外国株に投資している(図参照)。


2014.03.20(木)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40220

日本の年金基金:リスクを取り始めた巨大基金
(英エコノミスト誌 2014年3月15日号)

世界最大の年金基金は投資の仕方を変えつつあり、市場に大きな影響を及ぼすだろう。


●安倍首相に資産運用について意見したとされるジョージ・ソロス氏〔AFPBB News〕

 億万長者の投資家、ジョージ・ソロス氏は1月にダボスで安倍晋三首相と会った時、資産運用について強く訴えかけた。
 伝えられるところによれば、日本の巨大な公的年金基金はもっとリスクを取る必要がある、とソロス氏は安倍氏に語ったという。

 128兆6000億円(1兆2500億ドル)の運用資産を持つ
 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
世界最大の公的部門の投資家であり、他国のライバル機関や中東の政府系ファンド(SWF)よりも大きい。

 だが、その山のような資金は、日本円の札束を布団の下に詰め込むのとあまり変わらない冒険心のない投資戦略を使う、リスクを嫌う官僚によって運営されている。
 GPIFは、資産の3分の2を債券で保有しており、そのほとんどが日本国内の様々な債券だ。
 投資初心者のように、ほとんど指標に従ってパッシブに運用しており、
 海外で冒険することはほとんどない。

 政府は、是非ともソロス氏の願いを叶えたいと思っている。
 安倍氏は今、GPIFを全面的に見直す対策を講じようとしている。

 政府の有識者会議は昨年11月、広範囲に及ぶ改革の計画を立て、その一部は早ければ年内に実施される。
 将来の年金受給者に対するリターンを増やすため、GPIFは債券への依存を減らし、株式での運用を増やし、インフラやベンチャーキャピタルといった異なる資産クラスへも投資すべきだ、と有識者会議は結論付けた。

■GPIFをリスク嫌いにしている厚労省

 より抜本的な措置として、政府は、GPIFを厚生労働省に縛りつけている関係を断ち切りたいと思っている。

 GPIFをこれほどリスク嫌いにしているのは、厚労省の用心深い官僚たちだ。
 過去12年間で年率1.54%という低いリターンでさえ、GPIFは自身の目標を安上がりに達成した。
 厚労省は、けちと言えるくらい倹約的で、総勢80人のGPIFの職員は必要な市場データを購入できないことも多いのだ。

 コストを低く抑えることと、何の変哲もない東京の事務所でGPIFが行っているように、受付係をなしで済ますこととは別の話だ。

 安倍氏にとって、GPIFにはっぱをかけることは、2013年4月に日銀が本格的に開始した急進的な金融政策と並んで、日本経済を再生させる計画の一部だ。
 安倍氏は、デフレを打破することだけでなく、経済の中でリスクテイクを促そうとしている。
 計画されているGPIFの改革には、日本の大企業にコーポレートガバナンス(企業統治)の改善を求めることも含まれている。

 市場は既に、ゆっくりとした方向転換の効果を予想している。
 GPIFの影響は、その先例に倣う他の公的年金の投資家によって増幅される。

 GPIFは、ポートフォリオの中で日本国債のウエートを2013年3月の62%から2013年末に55%まで減らし、減らした分のほとんど――約8兆円――を代わりに日本株と外国株に投資している(図参照)。

 GPIFの変化は、日本の株式市場の目もくらむような上昇に寄与していたかもしれない。
 日本市場は、2013年に最高のパフォーマンスを上げた先進国の株式市場の1つだった。

 投資家にとっては、GPIFが今後も株式へのシフトを続ける可能性が高いことが日本株を購入する説得力のある理由になっている。
 それが今度は、改革を実施するという安倍氏の意志を強めている。
 今年はこれまでのところ、政府の幅広い人気に寄与してきた重要な要因だった日経平均の上昇が停滞している。

■戦々恐々とする国債保有者も

 だが、改革に声援を送る株式投資家がいる一方で、債券という資産クラスの最大の支援者が売りを継続した場合、最終的に債券価格に影響が出るのではないかと心配する国債保有者がいる。
 日本の公的債務が国内総生産(GDP)の240%近くに上ることから、投資家は長い間、日本の債券市場の暴落を予想してきた。

 政府の借り入れコストが安くとどまってきた理由を説明する1つの要因は、日本国債が、高いリスクプレミアムを要求する外国人ではなく、主として忠実な日本の銀行や公的年金基金によって保有されていることだ。
 だが、退職者が貯蓄を取り崩すにつれ、状況は変わりつつあり、このことは債券を保有する機関投資家が一段と重要性を増すことを意味する。
 不吉なことに、日本の経常収支は赤字に転落している。

 当分の間は、日銀が実施している金融緩和がGPIFの債券売りの影響を十二分に相殺するだろう。
 だからこそ、今がまさに幅広い債券売りを引き起こす不安なしにGPIFが債券を売却する絶好のタイミングだ、とGPIFに関する政府の有識者会議で座長を務めた伊藤隆敏氏は主張する。

 だが、GPIFはついに大量の国債を保有する義務を免れるかもしれないが、中央銀行がやがて「量的緩和」から手を引き始めた段階で、GPIFの変化が問題を悪化させる恐れがある。
 野村証券のチーフストラテジスト、松沢中氏(東京在勤)は、GPIFの市場からの部分的な撤退は後々危機の一因になるかもしれないと言う。

 12月に伊藤氏がGPIFの債券ポートフォリオを55%から35%へと大幅に削減するよう求めた時、国債利回りは一時上昇した。

 GPIFの全面的な見直しに賛成する基本的な議論には説得力がある。
 人口が高齢化しているため、GPIFは既に拠出金で受け取るよりも多くの金額を給付金で支出しており、低リスク・低リターンの手法に甘んじる余裕はない。

 GPIFの戦略は、例えば、もっと大胆な運用を行う余地を与えられているカナダやオーストラリアの年金基金と対照的だ。
 また、これらの年金基金は、株式を保有する企業の経営者に定期的に要求を出して困らせている。

 英国の資産運用会社ハーミーズのハンス・クリストフ・ヒルト氏は、GPIFに企業の監督強化を求めるよう義務付ければ、日本のコーポレートガバナンスを改善する最も有益な方法になるだろうと話している。

■GPIFと厚労省の抵抗

 今のところ、GPIFと厚労省は、安倍氏の構想にそろって抵抗している。
 GPIFの目的は、株式市場を押し上げることではなく、国民の資金を安全かつ効率的な方法で運用することだ、とGPIFの三谷隆博理事長は2月、不満を述べた。
 恐らくGPIFは債券ポートフォリオの削減をできるだけ少なくしようとするだろう。
 厚労省の官僚たちは、当然のことながら、世界で唯一最大の基金を運用するという威光を手放すのを嫌がっている。

 だが、政府は反対を押し切る決意だと内部関係者らは言う。
 2013年に円の空売りで10億ドルを稼いだと伝えられているソロス氏が、近いうちにさらに教訓を与えるために招聘されるかもしれない。

© 2014 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
Premium Information