2014年5月12日月曜日

日本が優先すべき5つの外交課題:日本は地政学的に差し迫ったポジションに陥っている?

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ロイター 2014年 05月 11日 14:34 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0DR02B20140511?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0

コラム:日本が優先すべき5つの外交課題=ブレマー氏

[9日 ロイター] - 先月のオバマ米大統領の訪日は、表面的には、あらゆる面で日本の共感を得る結果となった。
 日中間の地政学的対立で最大の火種である尖閣諸島(中国名・釣魚島)について、オバマ氏は米大統領として初めて、日米安全保障条約の適用対象だと明言。
 また、両国首脳は環太平洋連携協定(TPP)交渉についても、キーマイルストーン(重要な節目)を画したと発表した。

 しかし、大統領訪日の成果は見掛けほど素晴らしいものではなかった。
 尖閣諸島に関する発言は従来の政策を改めて表明したに過ぎない。
 TPP交渉でも「キーマイルストーン」が具体的に何を示すかは明らかにされず、実際のところ、40時間に及んだ2国間協議は何の進展ももたらさなかったようにみえる。
 中国の怒りを招くことなく日本をなだめたオバマ氏は今回の訪日で大きな勝利を収めたが、
 日本が中国の台頭にどう対応すべきかという解決策は示されなかった。

 米国が外交政策から距離を置き、中国が影響力を急速に拡大する中、
 日本は地政学的に差し迫ったポジションに陥っている。
 しかし、日本にはまだ選択肢が残されている。日本が優先すべき外交政策は以下の5つだ。

1].アベノミクスの推進

 日本の最優先事項は、安倍晋三首相が掲げる経済政策を徹底的に進めていくことだ。
 安倍政権は最近、安全保障問題への取り組みを強めているが、日本経済の勢いは維持されており、それは今後も継続する必要がある。

 経済の軌道を長期的に上向かせることは、日本にとって最も重要な課題だ。
 そうすることで日本はより魅力的なパートナーとなるほか、経済力によって域内問題への影響力を高めることもできる。
 アベノミクスを推し進めることは、安倍首相が得た政治的資本の最も有益な使い方だと言える。

2].中国が狙う日米間の「亀裂」拒否

 中国にとって、日米間に亀裂を生じさせることは重要な戦略だ。
 昨年11月に中国が東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定した時点から、この戦略は明確に示されている。
 ADIZ設定以降、日米の姿勢にずれが存在することも分かってきた。
 例を挙げると、日米両国は中国が設定したADIZを拒否したが、撤回を求めたのは日本だけだ。
 また、中国は日本の反応を激しく非難したが、一方で米国への対応は控えめだった。

 日本は今後、東シナ海やアジア地域の安全保障で米国と連携を図っていく必要がある。
 オバマ政権が日本寄りの姿勢を見せなければ、安倍政権は政治的に可能な限り、米国に合わせた発言をより積極的に行うべきだ。
 日米両国は中国に対して一致したメッセージを発信しなければならない。

3].日ロ関係の維持、欧州との連携強化

 東シナ海情勢に関しては日本は米国と足並みを揃えることが不可欠だが、対ロシア関係では同様のアプローチは問題となる。
 2012年12月の第2次安倍内閣の発足以来、安倍首相はロシアとの関係修復に相当な努力を重ねてきた。
 ロシアのプーチン大統領との会談は5回にわたり、領土問題に関する協議や2国間関係の正常化で大きな進展をみせてきた。
 しかし、日本が先月末、ウクライナ問題をめぐりロシアへの追加制裁を発表したことで、安倍首相のこれまでの成果がリスクにさらされている。

 もちろん、日本にとって米国に直接「ノー」と言うのは困難で、その必要もない。
 その代わりに、日本は欧州の同盟国と緊密に連携し、追加制裁の対象やペースを緩めるようオバマ大統領に働きかけるべきだ。
 西側諸国とロシアの経済関係悪化によりロシアはアジア諸国に目を向けることになり、最大の利益を得るのは中国になるだろう。
 日本は今、対ロ関係で絶好の機会を手にしており、その関係は継続させる必要がある。

 また、日本と欧州連合(EU)は、包括的な貿易協定の分野でも連携を強化すべきだ。
 安倍首相は先に、ファンロンパイEU大統領とバローゾ欧州委員長と会談し、経済連携協定(EPA)交渉について2015年の妥結を目指すことで合意している。

4].インドとの関係強化

 世界の歴史上最大の民主選挙が終わりに近づくインドだが、予想される最大野党インド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ氏の勝利は、日本に新たな機会を提供するだろう。
 国内市場改革を後押しするために、モディ氏は先進工業国とのパートナーシップを推進するとみられる。
 また、日本にとってインドは、中国の台頭に不満を感じ、かつ中国の影響下に吸い込まれるには存在が大きすぎるという点から、申し分のないパートナーだ。

 日印貿易は過去5年間で80%増加したものの、その額はわずか「180億ドル」だ。
 2012年の中印貿易は「670億ドル」、
 日中貿易は「3340億ドル」に達しており、
 日印貿易には拡大の余地が大きい。

5].米国主導の多国間協定

 農業分野などから関税引き下げをめぐり抵抗を受けても、日本はTPP交渉を推し進めなければならない。
 TPPが実現すれば、参加12カ国が関税や非関税障壁の撤廃を通じて得る経済的利益は数千億ドルに上るとみられる。

 TPP交渉が成功すれば、長期的に中国の貿易面での姿勢改善につながる可能性がある。
 中国に門戸を閉ざすのではなく、TPP加盟国が中国に対し、外国企業の権益や知的財産の保護などで特定のルールや基準の導入を促すこともできるだろう。

 また、日本はさらに歩を進め、米国やアジア諸国と安保面での合意に向けても基礎作りを始めるべきだ。
 多国間の安保協定があれば、東シナ海や南シナ海の領有権をめぐる衝突などに備えたルール整備も可能で、中国に対して関係各国が共有する懸念にも生かすことができるだろう。

 しかし、日米、そしてアジアの同盟国は、中国が方針を転換させた場合に備えて門戸を開いておくことも非常に大切だ。
 中国台頭への対抗措置として組織された安保条約に、同国が加わる理由などあるだろうか。

 米国が中東地域へのエネルギー依存を低下させているのに対し、中国は逆に依存を高めており、同国が中東での混乱にさらされる可能性は徐々に高まっている。
 米国はアジア太平洋地域で中国により安定した行動を求める代わりに、中東の安全保障では大きな役割を果たすという、安全保障の「交換取引」が生まれる可能性もある。
 こうした状況は日本、そして世界経済にとっても好ましいだろう。

*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*記事の体裁を修正して再送します。